技術ばかりではなく“魅力”を優先したい

――先程、自分のイラストの強みとして“色使いと光”とおっしゃってましたが、それをもっと詳しく説明してもらえますか?

藤ちょこ そうですね、まず色を塗るときは固有色、そのもの自体の色にプラスして、環境光、反射光など周囲の色合いを取り入れるような形にして、全体の色合いが単調にならないように意識しています。で、差し色を入れるときにベースにしている考えが、色彩遠近法という技法なんですけど、平たく言うと青とか緑とか、冷たい色味は奥に引っ込んで見える性質があって、逆に赤とかオレンジとか、そういう温かい色味は前に飛び出て見える性質があるんです。

――膨張色、みたいなことでしょうか?

藤ちょこ はい。例えば、立体的なモチーフの作品だったら、手前側にちょっと赤っぽい色味を差し色として入れて、逆に奥まってるほうに青色をちょっと入れたり。そういう感じで色のバリエーションを増やしてますね。

▲メイキング本『美しい幻想世界とキャラクターを描く』(玄光社)

――奥行きとかに興味がおありなんじゃないかと思ったんですが、立体の作品を作りたいとか、そういう方向に行きたいとかはないんですか?

藤ちょこ 全然ないです、というと言いすぎかもしれませんが……(笑)。今のところ興味があるかというと、そこまでではないかもしれないです。というのも、イラストの背景とか奥行きって正確ではないですよね、当然ながら。そのイラストならではの嘘みたいなのが、実際に立体にしてしまうと表現できないというか、破綻してしまうんじゃないかなと思っていて。ただ、世間的な流れとして3Dをイラストに使う、という流れは来ているので、勉強しとかないといけないなと思ってます。

――今のイラストならではの嘘って話は興味深いですね、確かに藤ちょこさんのイラストが持つ幻想的な雰囲気って、そういう側面もあったのかと思いました。

藤ちょこ 自分の興味が2Dのイラストのなかで完結してるから、あまり外に出ていかないところがあって、そこは自分の中の欠点だなって思ってます。

――いえいえ。そこでも藤ちょこさんのストイックさが出ている気がします。

藤ちょこ やはり、マルチに興味があったほうが幅も広がるし、仕事の広がりはあると思うんですけど、やっぱり2Dのイラストに今は興味が強くて。ただ、自分の絵をもとに他の方がフィギュア化してくれたりとか、アニメになったりとか、第三者の手によって、別の媒体に広がっていくのは本当にうれしいですね。

――ちょっと質問の趣向を変えて、藤ちょこさんの座右の銘をお教えいただけますか?

藤ちょこ そうですね、座右の銘というかわからないんですけど、普段から意識していることで言うと、“うまく描くんじゃなくて、魅力的に描く”というのは念頭に置いていますね。やはり絵を見てくださる方って、絵が技術的にうまいから好きと言ってくれてるわけじゃなくて、魅力的だから好きだって言ってくださってると私は思うんです。だから、そこを取り違えないようにしてます。言葉では伝わりにくいんですけど、技術ばかりを追い求めるんじゃなくて、魅力のほうを優先するようにしてます。

――うまく描くよりも、魅力的に描くっていうほうが大変かもしれないですよね。それこそ、唯一無二であることって、かなり大変難しいことだと思うし、意識してもできることではないですもんね。

藤ちょこ 一時期、うまい絵を描かないと……と思い詰めすぎて、結構しんどかった時期があったんです。そこからうまい絵じゃなくて、魅力的な絵を描こうという発想にシフトしたら、楽しく絵が描けるようになったという経験もあって、そこからより意識するようになりました。

――例えば、藤ちょこさんの場合、ご自身が自由に描くイラストもあれば、案件としてオファーされて描く絵もありますよね? その違いはありますか?

藤ちょこ たしかに自分の描きたいものを自由に描いているときは楽しいんですが、逆にオファーしていただくイラストも、自分では発想しないようなモチーフを描くと、引き出しが広がるというか、そこで得たものがまた自分の中にフィードバックされていく感覚があるので、どちらも大事にしていますね。

――自分発信では描かないもののなかに、新たに自分の世界を広げる鍵があるってことですね。またそもそもの質問で申し訳ありませんが、イラストって1枚1枚作業するんですか? それとも何枚か並行して作業するんですか?

藤ちょこ 私は何枚か並行して作業しますね。依頼案件だと月末納期のものが多いので、だいたい月の初めはいろいろな案件のラフを描いて、交互に作業していって、月末に仕上げして納品する、こういうサイクルでやってますね。

趣味のヒトカラで歌う曲は?

――納期など、こういうのって普段お聞きしないし、想像もできないので、新鮮な驚きがありますね。藤ちょこさんのパーソナルな部分を少しお聞きしたのですが、先ほど、旅行がイマジネーションのもとになっているとおっしゃってましたが、趣味はほとんどお仕事の一環になっている感じですか?

藤ちょこ そう言われるとそうですね(笑)。旅行、読書、どちらも趣味といえば趣味なんですが、イラストに活かすため、みたいな部分も多分にあるので、全然絵に関係ない趣味で言うと、ヒトカラに行くのが好きです。

――何を歌うのか気になります! 十八番とかは?

藤ちょこ (笑)。そこに特にこだわりはないんですけど、自然とアニソンが多くなっている気はしますね。あと、最近はAimerさんを歌いますね、「RE:I AM」は毎回入れてる気がします。あとヨルシカさんとかも歌います。

――どちらも難しいですけど、藤ちょこさんの声を聞いたら上手に歌われるんだろうなと思いますね。普段パーソナルな部分って見えにくいので、ヒトカラ行きます! とかもとても新鮮に聞こえます。

藤ちょこ ふふふ(笑)。ありがとうございます。たしかに、私も日常のことをツイートすることって少ないので。

――この連載では、いろいろなイラストレーターの方にお話を伺っているんですが、藤ちょこさんが注目しているイラストレーターの方はいますか?

藤ちょこ ほぼ自宅にいて完結できるので、なかなか同業の知り合いができにくい仕事ではあるんですが(笑)。Rellaさん(@Rellakinoko)の絵はすごく好きですね。説明しにくいんですが、ドラマチックに陰影を描かれるんですけど、かつ透明感もあって、いつも見ながら“どんなふうにすれば、こういう絵作りができるんだろう”と思っています。

――藤ちょこさんが“どんなふうにすれば”と思われるほどの方のイラストは興味ありますね。ちょっとチェックしたいと思います。最後に、今後の展望についてお聞きしたいのですが。

藤ちょこ 大きな野望とかではないんですが、イラストレーターという仕事を10年、20年先も続けていければいいなと思っています。やはり簡単に続けていける仕事ではない、流行り廃りもありますし、体調の面もある。個人的に、体調の面が理由で引退してしまった好きな作家さんもいるので、健康には気を使っています。と言っても、ついつい昼夜逆転の生活をやってしまいがちなんですが……(笑)。体が資本ということで、最近は夜更かしはしないようにしています。


プロフィール
藤ちょこ
千葉県出身、埼玉県在住のイラストレーター。ライトノベルやソーシャルゲームなど様々なジャンルで活動中。最近の主な仕事にマジカルミライ2020メインビジュアル、「根羽清ココロ」「リゼ・ヘルエスタ」「Omegaα」「駿河(アズールレーン)」「狐ヶ咲甘色(#コンパス)」キャラクターデザインなど。1st画集「極彩少女世界」がBNN新社より、2nd画集「彩幻境」が玄光社より発売中。Twitter:@fuzichoco