自称“ダメ人間”だった結城を作家に導いた東大の同級生

――結城さん、とてもお話が上手ですし、テレビとか動画コンテンツとか、メディアに出ていかれると思うんですね。なんなら、すぐにでも『Qさま』とか出るんじゃないかって。

結城 えー、本当ですか?(笑)

――本当にそう思ってます。この先も初めてのインタビューや現場だと、どこでも聞かれるんじゃないかと思うんですけど、やはり結城さんのプロフィールで最初に目を引くのは、東京大学の法学部を卒業されてミステリー作家になっている、という経歴だと思うんですね。

結城 そうですね。たしかに、そこを聞かれることは多々ありますね。

――結城さんは、2018年に『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞されるわけですが、大学に通いつつ賞への応募をしていた、ということでしょうか?

結城 いえ、実は全然してなかったんです。

――え、そうなんですか!?

結城 「小説家になる」って嘯(うそぶ)いてはいたんですけど、何かの賞に応募することはおろか、実は書くことさえしてなかったんです。小学校の授業と中学校の卒業文集の成功体験がずっと頭にあって、“まあ、本気出せばなんとかなるっしょ”っていう、典型的な行動に移さない、いわゆるダメ人間だったんです(笑)。

――いえいえ、それは卑下し過ぎだと思いますけど(笑)。夢を追う若者でも行動に移さない人は多いですよね。そんな結城さんが重い腰をあげるキッカケはなんだったんですか?

結城 大学の同級生に辻堂ゆめさんがいたんですけど、在学中に『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を、『いなくなった私へ』という作品で受賞されまして、もう目の前で自分が嘯いていたことを結果として提示されて、完全に鼻っ柱をへし折られましたね。限られた世界での熱狂体験にあぐらをかいて、“まあ、いつかなんとかなるだろ”って思ってたところに、同級生がしっかりと結果を残して一冊の本として出した。これは、かなりガツンと喰らいましたね。

 

――なるほど。というか、東京大学の法学部のある時期に、のちのミステリー作家が2人いるって……すごいですね!

結城 たしかにそうですね(笑)。それで、このままじゃいかんと思って、卒業間際に新潮ミステリー大賞に応募してダメで、次に応募したのが『名もなき星の哀歌』、これで第5回新潮ミステリー大賞を受賞させていただき……

――ちょっと待ってください。そこで何作か送ってダメで……とかじゃなくて、実質2作目で、もう受賞したわけですか? すごすぎる!!

結城 ありがとうございます(笑)。

――正直、これを読んだ作家志望の方が全員、心折れちゃうんじゃないかと思うんですが……(笑)。ウサイン・ボルトに早く走るコツを聞いてるみたいな、途方もない天才の体験談を聞いているような気持ちに……。

結城 いえいえ(笑)。ただひとつ言えるのは、辻堂さんが賞を取ってくれてなかったら、未だに嘯くだけの自分で終わってたかもしれない。本当、あのときに一念発起してよかったなと思います。

意識しているのは“フェアであること”

――個人的なお話になるのですが、先ほどもチラッと言ったように、ミステリーって「うわ! やられた!」という感覚を楽しむものではあるんですけど、そこの感覚を重視し過ぎて、少々の齟齬は目をつむってください、という作品も少なからずあるような気がしているんです。

結城 はい、わかります。

――その点、結城さんの『#真相をお話しします』は、どの話もそれがないのが素晴らしいなと思っていて。結城さんが書く際に意識していることはありますか?

結城 ひとつ明確に意識しているのは、フェアであることですね。自分が読者としてミステリーを読んでいて心が動く瞬間って、今まさにおっしゃっていただいた、“やられた”って気持ちと悔しさ、でも最後には納得して終わる、というところ。それこそが上質なミステリーだと思うんです。読者の方が納得しないと良い読後感にはならない。そこを作り上げることこそ、読み手に対してフェアであることだと思っています。

だから、ラストらへんになって、急に読者が知らない人が出てきたらダメだな、とか。序盤から満遍なく謎解きに必要な情報が出ているのが理想だな、とか。やっぱり結末を見て、悔しさを感じたときに読み返してみると“書いてある”、というのがいいですよね。

――なるほど。たしかに結城さんの作品を読むと、気持ちの良い負け、清々しさを感じます。あと感じたのは、SNSやYouTubeが違和感なく作品に登場していること。無理に使っているんじゃなく、当然そこにあるものとして出てくる。

結城 それはまさにそうですね。あえて今風を狙って題材を探した、というよりは、周りの友人も当たり前に使っているもの、手を伸ばせばそこにあるものを使っているので、その近さは出ているかなと思います。

≫≫≫ 明日公開の後編へ続く


プロフィール
 
結城 真一郎(ユウキ・シンイチロウ)
1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年に『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、2019年に同作でデビュー。2020年に『プロジェクト・インソムニア』を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー『本格王2020』(講談社)に収録される。2021年には「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年、3冊目の長編作品である『救国ゲーム』を刊行し、第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出される。Twitter:@ShinichiroYuki