入社してから私の意識も変わったことが面白い
――書店員として「面白さ」を感じるのは、どんなときでしょうか?
宮崎 文学賞の受賞作が、受賞直後からすぐ動き始めるところは電子書店ならでは、と感じています。リアル書店で買うとなると、受賞作が決まってから本屋さんに寄って、仕事終わりに買うと思うんですけど、電子の場合だと、受賞作が決まった直後から売れていくので、やっぱり電子には、リアルタイム感がすごくあるなと思います。
――電子書店だと、すぐに芥川賞などの企画棚ができるじゃないですか。書店員の方もじりじりと備えてたりするんですか?
宮崎 そうですね。芥川賞・直木賞だと、だいたい夕方ぐらいに決まるので、そのぐらいの時間は、パソコンの横に携帯を置いてチェックしたりしています。
――私はSNSで見るより先に、電子書店の棚で受賞作の確認をしたりしてます。
宮崎 ありがとうございます。それに、プレゼント施策やクーポン施策などを実施すると、短期間で数百人、数千人が応募したり、使ってくれたりするので、それはリアル書店でもなかなか味わえない経験だと思います。
――「読書一生分キャンペーン」とかですか?
宮崎 そういった全体的なものよりも、版元さんとの打ち合わせで、著者の本を購入した方にサイン本をプレゼントするとか、BLジャンルだと色校のプレゼントとかですね。そういった施策がバッチリはまったときは、売上も上がります。リアル書店さんもサイン本販売はやっていると思うんですが、プレゼント企画はあまりないと思うので。
――特典画像をデータでプレゼント、などはできても、実物のプレゼントに対応できる電子書店は少ないですしね。
宮崎 hontoは通販があるので、配送や発送が他の書店より運用しやすいというのはありますね。
――なるほど。そこがまたハイブリッド書店の強みとなるんですね。鈴木さんが面白さを感じるときは?。
鈴木 まとめ買いなど、かなりの数の複数冊購入があるところです。リアル書店にいたとき、コミック全巻買いはよくあったんですが、実用書は、紙だとあまりまとめ買いされるジャンルではないんです。コミックに比べると単価も高めですし。
でも電子だと、スマホで持ち歩けて、hontoの毎月のセールのように紙より少しオトクに買えることもあるので、刊行から年数の経過した実用書でも、多くの方に購入していただけるのがうれしいです。 私自身も入社してから、hontoでレシピ本のまとめ買いをよくしています。私の意識も変わったことも面白いところですね。
――わかります。オトクになってるから、ストレスなくどんどん購入ボタンを押せますよね。
鈴木 人それぞれ、紙で持っておきたい本と、電子だけでいい本があると思うんです。実用書は比較的、電子だけでいいって思ってる方も多いのかなと感じてます。
電子書店員ならではの悩み「お客様の顔が見えない」
――逆に、苦労や悩みはありますか?
宮崎 井上(第4回インタビューの「honto」BL担当)のインタビューを見返してみると、「読者の顔が(電子書店でも)見える」と書いてあったので気まずいんですが、読者の「顔」が見えないところですね。
――きっと井上さんは特殊能力を使われてるんですよ。
宮崎 経験が足りないなと思うところではあるんですけど(笑)。リアル書店だと、その本やフェア棚の前で、立ち止まって見ているのかどうかわかりますよね。電子だと、数字やデータで「こうなんだろうな」という推測はできるんです。ですが、実際どういうふうに迷われてるのか、はたまた見つけてもらえていないのかというのは、なかなか推し量りかねるところがあって。改善策へのテンポが遅れるのが悩みですね。
――お客様の顔がなかなか見えない、というのは他の電子書店員の方もおっしゃいますね。
宮崎 だからSNS、Twitterなどで反応を見てますね。
――電子書店ならではの悩みですね。鈴木さんはどうでしょう。
鈴木 電子だと在庫が無限にあるのに対して、お客様の視野はスマホやタブレットの画面のみ、という点です。画面もファーストビューは1行くらいしかない。実際に働くまでは「在庫管理がないから、いくらでも売るぞ!」みたいな気持ちでしたが、やっぱり実店舗以上にお客様の視野が狭くなる。
お客様に何を売りたくて、何を今売るべきかというのを考えて、画面の配置もしないといけないなと思ってます。多すぎてもページの下のほうは見きれない、でも出したい商品は無限にあるんです。フェアを1つ組むにしても、今まで以上に考える必要があるなと思います。
――リアル書店だと、なんとなくフラフラ回遊しちゃうから、自分の目当てじゃないジャンルにも目がいったりしますけど。電子書籍は欲しいものを検索して見つけるのはすごく簡単だけど、もしかしたら興味があるかも的な本を見つけるのは、なかなか難しいかもしれませんね。