10月19日、ロシア軍がウクライナ西部の火力発電所を攻撃。同発電所は西部3州に電力を供給しており、今月10日にもミサイル4発の攻撃を受けたとされており、ロシア軍によるインフラへの攻撃が続いている。

ロシアとウクライナの軍事力の差から、誰もが早期決着と思っていた今回のウクライナ侵攻。しかし、このように長期戦にもつれ込んでいるのは、士気の高いウクライナ兵やアメリカの迅速な武器供与により、必ずしもロシアが勝利するとは言い難い戦況になってきているのは、誰の目から見ても明らかだ。

長期戦にもつれ込んだ結果、ロシア、ウクライナ両国はどういった環境で戦っているのだろうか。小川清史元陸将、伊藤俊幸元海将、小野田治元空将といった軍事のプロフェッショナルが防衛問題研究家の桜林美佐氏の司会のもと解説します。

※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析-日本の未来のために必要なこと-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

供与決定からわずか72時間で武器が届く

桜林 ウクライナ側の砲兵の練度は高いと言われていますが……。

小川(陸) そうだと思います。これだけロシアの将官を戦死させていますからね。少将以上の戦死者の多さはかつてなかった、とアメリカが断言しているくらいですから。

伊藤(海) これって特殊部隊の仕事じゃないんですか? だいたい狙撃ですよね?

小川(陸) そうですね。狙撃兵も敵がどこに来るか、ある程度わかっていて、3日とか1週間ずっと気配を消して待ち伏せしていますからね。2人1組で、1人が気象を読んで観測をする。そんなに何発も撃てませんから。

伊藤(海) 前線で、倒れて、死んだふりをして待っているんですよ。

桜林 第二次世界大戦で活躍した狙撃兵を主人公とした『スターリングラード』という映画でも、そういう場面がありましたね。

▲狙撃兵によってロシアは将官を戦死させられている イメージ:zabelin / PIXTA

伊藤(海) まさに独ソ戦のときですよね。今とは逆に、当時はソ連兵がそれをやっていた。

小川(陸) ロシア軍にとっては、狙撃による被害に加え、パルチザンのように内側に入られてウクライナ側に情報を取られるという、まさに独ソ戦の逆バージョンですね。

伊藤(海) ウクライナの人はロシア語ペラペラだけど、ロシア人はウクライナ語をしゃべれないから、ウクライナ兵はいくらでも入り込める。

桜林 なるほど。あと、先ほど小野田さんがおっしゃっていたように、アメリカは武器供与の際に、ウクライナ兵士たちにかなり訓練を積ませて、育成しているそうですね。

小野田(空) はい。訓練はパッケージになっていて、1ラウンド目はすでに終了しています。榴弾砲でだいたい6日間のトレーニング、それから「M113装甲兵員輸送車」が5日間ぐらいだそうです。防空レーダーも1週間くらいで習得できるようになる。

そういうレベルに達するまでウクライナの国外で訓練をして、ウクライナ国内に戻していく形になっているようですね。アメリカに言わせると「在庫さえあれば、装備品の供与を決めてから、72時間で現地に届ける」とのことです。

レンドリース法は、まさにその武器供与のスピードアップのための法律ですから。72時間で現地に届けてしまう輸送力というのは、さすがアメリカです。それを見てプーチン大統領も焦っているということが言えるのではないでしょうか。