コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻を経ても 他の主要国が成長し続けている中、 日本だけが経済規模を縮小させているのはご存知でしょうか?このままでは日本は滅亡してしまう、と元内閣官房参与で、京都大学大学院教授(レジリエンス実践ユニット長)である藤井聡氏は警鐘を鳴らします。

近年ではイーロン・マスク、過去には三島由紀夫…… 切り口は違えど「日本が滅亡する」というイメージを持つ者はもう少なくありません。しかし、藤井氏は歴史の教科書に載っているような、政府が解体され国そのものがなくなってしまうような「滅亡」が待ち受けているわけではないと話します。各界の重鎮がそれぞれの視点で論じた、滅亡する日本の姿とはなんでしょうか?

※本記事は、藤井聡​:著『グローバリズム植民地 ニッポン - あなたの知らない「反成長」と「平和主義」の恐怖』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。 

「日本が滅亡する」というイメージが共有されはじめている

私が論じようとしている「日本の滅亡」とはどういうものなのか───それは、紀元前のカルタゴや20世紀のチベットの様にローマや中国といった近隣の大国に軍事力で攻め込まれ、中央政府が解体され、国が無くなってしまうという、国家の滅亡として多くの人々がイメージする典型的な事態とは全く異なっています。

そういう国の滅亡は、有史以来、ごく最近の20世紀後半までスタンダードなものでした。しかし、今日ではそういう国の滅亡は、ほとんど考えられない状況になってきています。ウクライナ侵攻ではそのイメージに近い帰結がありえますが、ロシアはウクライナを完全解体するところまで考えているとは思われません。

今日における唯一の例外として、中国による「台湾併合」はあり得ますが、中国はそもそも台湾を一つの国と認定してはいませんし、アメリカや日本ですら、台湾を一つの国として正式認定している訳ではありません。中国はあくまでも、台湾は中国の一部(すなわち「一つの中国」)だと認識しているわけです。

そう考えますと、日本が中国やロシア、さらにはアメリカに侵略され、カルタゴやチベットのように日本という国が未来永劫無くなるような事態は考えがたいのです。

しかしそれでもなお、かなり近い将来に、場合によっては当方が生きて居る間でも、「日本滅亡」はあり得ると考えています。

しかも、そう感じているのは、当方一人ではないのです。

たとえば、評論家の伊藤貫氏は、ロシアのウクライナ侵攻について総合的に論じた批評文にて、我が国が如何に自主防衛を全く考えていないのかを子細に論じた上で、次の様に断定的に論じています。

「自主的な核抑止力を持たない日本は、十数年後に滅びるであろう」

核を持たざる我が国日本はロシア、中国、北朝鮮、アメリカという四つの核保有国に囲まれ、しかも、その内の三つの国(中国、ロシア、北朝鮮)と潜在的な交戦状況にあり、かつ、その内の一つの国(アメリカ)に事実上の保護領扱いを受けています。

そんな状況の中で今、ロシアも中国も北朝鮮も、自らの生き残りをかけて必死にもがき続けています。世界最大の超大国アメリカもそんなロシア、とりわけ中国の猛追を受け、冷戦直後に見られた余裕状況ではすでになくなってしまっており、その意味においてアメリカも必死になっている状況にあります。

そんな自らの生き残りをかけて何の余裕を持たない四つの核保有国に囲まれた我が国日本が、これら四つの国々から友情や慈愛を受け続けていくなんていう都合の良い話しは絶対にあり得ません。この4カ国はそれぞれ、この日本をどうやって上手く自らの利益のために利用できるかを考えているのであって、日本に対する働きかけの全ては、それ「だけ」に基づくものだと考えて然るべきなのです。

それにも拘わらず、(同記事にて伊藤氏が子細に指摘しているように)我が国には核抑止力を持たないどころか、それを持とうとする議論すらほぼ完全に封殺されてしまっているのが我が国の現状です。

たとえば、岸田現首相はロシア・ウクライナ戦争勃発後に俄に活性化した日本における核武装論の議論の全てを否定し「議論することすらしない」と宣言してしまっています。そうなってしまっているのは、岸田氏が本で言う所の「幼稚な平和主義」に雁字搦めに縛られてしまっているからに他なりません。

伊藤氏は、そんな愚かしい平和主義に縛られ、核武装の議論もできないでいるなら、十数年以内に滅びる他無いだろうと、我々に強い警告を発しておられるわけです。

▲日本が生き残るためには「核抑止力」の議論を恐れてはならない イメージ:Olivier Le Moal / PIXTA

あるいは、伊藤氏とはまた全く別の文脈で、日本の滅亡を主張している方としてあげられるのが、電気自動車で世界の自動車市場を激変させているテスラの創始者イーロン・マスク氏です。

彼は2022年5月、ツイッターに「当たり前のことを言うようだけど、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう。これは、世界にとって大きな損失となる」と投稿しました。これは、単なる事実の指摘、ではあります。人口減少が続けば、当然、遅かれ早かれ世界中から日本人が消えて無くなることになります。

しかし、マスク氏の主張は、そうした物理的数理的真実を述べたというよりも、この人口減少というトレンドの先に、「日本国家の滅亡」という事態が待っているであろうことを暗示するものであったと解釈することができるでしょう。

すなわち、マスク氏の主張は、日本国民の絶滅という事態というよりはむしろ、日本人の人口が、日本という国家を政治的、社会的、文化的に保守し続けるために必要な最低限の人口をこのままの少子化傾向が続けば下回ってしまい、日本という一つの伝統的国家を政治的、社会的、文化的に支えることができなくなり、事実上、日本という国が滅び去る、というイメージをベースとした発言だと思われます。

そして、多くの日本人がそのように受け止めたからこそ、この発言が大きな波紋を呼び、数多くの記事で取り上げられると同時に、「日本消滅」というキーワードがネット上でトレンドワード入りする帰結となったのです。