東京オリンピック2020の開催決定を機にいたるところで聞くようになった「グローバル化」。しかし「治安が悪くなる、日本文化が危うい」と起きてもいないネガティブな妄想で、国内に外国人が増えることに反対している人も少なくない。そこで、日本に移民が増えるとどんなことがもたらされるのか、元国連職員の谷本真由美氏が解説します。

※本記事は、谷本真由美:著『世界のニュースを日本人は何も知らない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

国を豊かにするのは「高学歴移民」

ここで近年、日本で持ち上がっている移民問題についても考えてみてほしいと思います。日本人のみなさんが叫ぶ移民不要論は、はっきり申し上げて「日本にガイジン労働者を入れると犯罪が増える、生活保護受給者が増える、外国語表記が増える、ゴミ捨て場のルールを守らないからトラブルが増える、ガイジンに日本が乗っ取られて日本じゃなくなる!」という妄想なのです。

ここはひとつ日本の人口動態を学んで、いかに自分らの首を絞めようとしているのか、よくお考えになったほうがよろしいでしょう。

第一に、高齢化は移民を必要とします。国立社会保障・人口問題研究所によれば、2014年現在、日本の総人口に対し65歳以上は26%ですが、2025年には30%に増加します。医療はいまよりも発達するかもしれませんが、年老いてから死ぬまで健康という人はそう多くなく、80歳以上ではなんと30%が要介護と見込まれています。

ちなみに国の介護保険の費用は2001年から2010年の間に2倍以上に膨らんでいます。介護費用とともに介護サービスも拡充していく必要があるのに、介護職は低賃金で厳しい仕事なので働き手が不足。しかし需要がどんどん増えていくのは明らかです。

国際移住機関による研究では、イギリス、アイルランド、カナダ、アメリカでは移民労働者による介護や医療サービスの提供が避けられない状況になっているといいます。

日本と同様、賃金が低く働き手がいないので、労働需給のギャップを移民で埋めざるを得ないわけです。日本には人手不足でサービスの縮小や事業停止を余儀なくされている施設もあり、これは実際に私の身内が経験しています。

▲激減する働き手の穴を埋められるのは移民だけ イメージ:takeuchi masato / PIXTA

第二に、出生率が低下しているので働き手も減っていきます。働き手が減ると、物をつくる人やサービスを提供する人が減る=収入が減る=税金も減る、という最悪な連鎖ができる。しかも高齢者がどんどん増えて稼ぐ人が減る、でも高齢者は支えなくてはならないので税金はもっと必要になる、という地獄のような状況が待っているわけです。

年金の運用は微妙で、過去の予測だけで今後やっていける可能性は高くないでしょう。働く人個々が負担を減らしたいなら若い人を増やさなくてはならない。しかし子どもを産む人は増えない。であれば、外から来てもらう以外の選択肢はあるのでしょうか。

第三に、激変している世界で日本の経済力を維持したいなら、多様な人を受け入れて創造性を高めるために移民を入れるべきです。「移民を受け入れると創造的になるなんて」と懐疑的な方はぜひ学術研究書を読んでください。学者はちゃんと研究しています。

なかでも、アイオワ大学、ミシガン大学、シアトル大学の研究者が実施した、人種的多様性と創造性の相関性による研究はたいへん興味深いものです。

同じ人種で構成されたグループと、多人種で構成されたグループに同じビジネス上の課題を与え、解決策を比較するという研究を行いましたが、人種的に多様なグループのほうが創造的であり、画期的な解決策を生み出したと結論づけています。

また、カリフォルニア大学バークレー校のエンリコ・モレッティ教授は、自身の著書『年収は「住むところ」で決まる──雇用とイノベーションの都市経済学』(プレジデント社)で、高度な教育を受けた移民はその国に高い創造性をもたらし仕事を生み出すので、自国民の仕事が増える、と述べています。優秀な人々によりその土地全体が豊かになるため、結果的に給与が底上げされるなどの利点があるわけです。

さらに『クリエイティブ資本論──新たな経済階級の台頭』(ダイヤモンド社)の著者である都市計画専門家リチャード・フロリダ氏は、多様性と富の関係を長年研究しているなかで、「ゲイとロックバンドのいない町は経済発展競争に負ける」と示しています。つまり、多様性を受け入れない国や町には未来はない、ということなのです。

▲多様性が創造力を高め、国を豊かにする イメージ:EKAKI / PIXTA