その日もタイプの男性とホテルへ・・・
私の勤める飲み屋がある繁華街は、ホテル街がとても近い場所にあるんです。その日も“この人、タイプだなあ……”という人とお店で出会い、“あなたに好意がありますよ”、という雰囲気を匂わせ、そのまま退勤後、誘われるがまま一緒にお食事に行きました。
食べ終わり、お店を出たあと、申し合わせたかのように、いつの間にか二人でその方向へと歩いていたんです。通りに面した入口から適当に入った一軒のホテル。
部屋に入り、ドアを閉めると、男がいきなり抱きついてきたので、私も抱き返しました。
シャワーを浴びようという提案をするつもりはなかった、それくらいお互いの気持ちは盛り上がっていました。
男の話も雰囲気も、とても心地よかったが、まず見た目が好みだったのもあって、いざコトが始まると気持ちが入ってるからか、普段よりも、より気持ちよく感じたのです。
“こういう相性も合ってるのかな……”
ベットに座り、男がその前に立つ。そして中腰になって唇を重ねながら、服の上から彼に胸元を触られているなと思っていると、いつの間にかシャツの胸ボタンがひとつはずれていて、手が中に入ってきました。
シャツの下に着ていたキャミソールをまさぐる男の大きな手。少しの荒々しさが心地よい。
カップのついているキャミソールだったから、ブラを外す必要もなく、男の手はすぐに私の乳首の先に触れてきました。
なんでなのかよくわからないけど、電流のような気持ち良さだった。
「肌が合うってあるんだよ、本当に」
ちょっと前にランチした友人が、自分の推しホストとの情事をそう表現していて、“へー、そうなんだ”と感心した声を出しながら、内心は鼻で笑っていたけど……。
“本当にあったわ、ごめん”。
ベッドの縁にこしかけて、愛撫に身を任せていると、男が押し倒してきた。そこまでははっきり覚えているんです。でも、そこから先は……熱くなったのか夢中に体を重ねました。
クタクタになったあとは、2人ともシャワーも浴びず、下着も着けないで裸のまま眠りについたのです。
グイッ、グイッと引っ張られ・・・
夜中、電気の消えた部屋で目が覚めて、しばらくぼーっと天井を見上げたのち、その風景が自室ではないことに気づき、
“そっか、今日はホテルだったか”と思い出しました。
すると、なんか急に心細くなって、体に触れたくなって、男が寝転がってるだろう左側に手を伸ばしたんですが、
“あれっ? いない……”
その瞬間、右から、腕をグイッと引っ張られたんです。
「キャッ!」
“ちょっと! なにそれ、どんな遊び!?”
少しムッとしながら、それでも彼がそんなイタズラを仕掛けてくれるのがちょっとうれしくて、
「そんな狭いところによく入れたね。どうやって入ったの?」
私がそう思ったのも無理はない。ベッドの端の向こうは小さな隙間しかなく、すぐ壁だからだ。
グイッ。グイッ。となおも引っ張られながら、「なぁに〜?」と言いながら、真っ暗のなかで体ごと右を向くと、お手洗いのほうから「ジャーッ!」と水を流す音がした。
“えっ”
ビクッとそっちを見ると、お手洗いのドアが開き、中の灯りが漏れてくる。そして、男が出てきた。
“ええっ……じゃあ……”
右腕は、まだ私の腕をグイッ。グイッ。グイッ。グイッ……。
「電気!!」
そう叫ぶと、男は驚きながら壁のスイッチを押し、灯りをつけてくれた。驚きすぎて、いつ離されたのかわからないけど、引っ張られている感触はなくなった。
「……見て、その隙間」
指さしながら彼に言ったけど、怖すぎて声は出てなかったかもしれない。男が不思議そうな顔でベッドの隙間を覗いてくれたけど、当然、誰もいなかった。
「寝ぼけてた?って男には笑われたけど、あの感触はまだ腕にしっかり残ってたから、すぐに自分だけ適当な理由をつけてホテルをあとにしたんです」
そこまで言うと掴まれたという右の腕をなでた。
あ、一応聞いておきましたよ、そのホテルの名前。