機動戦がうまくいかずに消耗戦に

桜林 ウクライナ軍は、ロシア軍の渡河作戦を9回阻止したと言っています。ロシア側はどうして同じ失敗を繰り返したんですか?

▲沖縄作戦経過要図(1945.4.1 ~ 6.20) 出典:『日本の戦争・図解とデータ』(桑田悦、前原透 共編著、原書房、1982年10月24日)p62をもとに作成

小川(陸) 上図は1945年の沖縄戦の作戦図をもとに作成した図です。丸で囲んだ部分が沖縄戦攻防の焦点なんですけれども、その真ん中付近に嘉数(かかず)高地という高地があります。ここは今でもある程度、崖のまま残っています。

桜林 普天間の基地の近くですね。

小川(陸) アメリカ兵がどうして大変なところをわざわざ登っていったのか、不思議に思いませんか。迂回すればいいじゃないか、と思うでしょう?

桜林 思います。どう考えても突破は難しいのに。

小川(陸) バウンダリー(boundary)という境界線によって任務地域を割り当てられると、各部隊は任務地域を通らなければいけないんです。嘉数高地を任務地域として与えられた部隊は、そこを攻撃前進しなければならなかったんです。それが消耗戦〔敵軍の物質的な戦力を弱めて、戦闘継続を不可能にするための戦い〕の戦い方なんですね。

上級司令部から攻撃しろと言われたら、任務地域内に存在する敵を残すことなく一個一個潰していかなければならない。その代わり、掃討作戦は不要となります。確実に敵をやっつけて、敵を残さない状態にしていくので、自分たちの支配地域として、そのまま使える状態になるわけです。

一方、機動戦〔敵軍の指揮・統制能力・士気などを弱めて、戦闘継続の意思を失わせるための戦い〕というのは、敵の重心である目標を一気に攻撃して作戦目的を達成する戦い方です。2月から3月のロシア軍によるキーウ攻撃が機動戦でしたが、ウクライナ軍の巧みな防御によってロシア軍の空挺部隊、地上部隊の犠牲が多くなり、結局、この正面も消耗戦のような様相を呈してしまったと思います。

機動戦は目標ラインを設定しバウンダリーを引き「このなかを目標ラインまで攻撃していけよ」という攻撃なんです。それは、ドネツ川渡河作戦でも行われている作戦で、渡河作戦が成功してウクライナ陣地奥深く突進できれば、ロシア軍による機動戦が成功するはずだったと思います。しかしながら、ロシア軍は機動戦がまったくできないまま消耗戦に陥りました。

▲ビロホリウカ近郊で破壊されたロシアの浮橋と車両 写真:armyinform.com.ua / Wikimedia Commons