石井輝明と安田邦祐によるお笑いコンビ、コマンダンテ。二人は大阪NSC29期生で、同期には見取り図や金属バット、ヘンダーソンなどがいる。2008年に結成され、翌年にはM-1グランプリ準決勝進出した実力派漫才師だ。

ロートーンで淡々と進むボケとツッコミのアンサンブルは、シュールな設定でありながら、老若男女が笑う説得力にあふれていて、一度見ればこれぞ漫才、という充足感を得られるだろう。

コマンダンテのツッコミである石井は、無類のコーヒー好きとして芸人ファンのあいだでは広く知られている。そのコーヒーの知識をふんだんに盛り込んだのが、昨年12月に発売された『全人類に提唱したい世界一手軽な贅沢 おいしいコーヒーライフ入門』(KADOKAWA)だ。

この本はカフェ訪問数1300店以上、オリジナルブレンド開発など、コーヒー芸人として右に出る者がいない石井流の楽しみ方を紹介する実用書。「おうちで絶品コーヒーを淹れる」「“推し豆”を見つけよう」「カフェ活のススメ」など、コーヒー素人でも読めばコーヒー好きになる、コーヒーライフ入門本だ。

初の著書を出版したコマンダンテ石井に、コーヒーの魅力、そしてコーヒーに例えた芸人論など聞いてみた。

▲石井輝明(コマンダンテ)

ヒロミさんにコーヒーを淹れているときに思ったこと

――コマンダンテのネタを大好きな私のような人であれば、石井さんが無類のコーヒー好きであるのは知っているのですが、改めて石井さんがコーヒーにハマったきっかけについてお聞かせいただけますか?

コマンダンテ 石井(以下、石井) 後輩のアイロンヘッドのナポリくんがコーヒーミルをプレゼントしてくれて、そこからですね。まだ大阪にいた頃なんで、だいたい7~8年前とかでしょうか。

――本を読んだら、後輩のナポリさんに「石井さんはキャラがないから、コーヒーキャラをつけたほうがいいですよ」と悪意なく言われた、と書かれてましたが(笑)、コーヒーを好きになる前は何かにハマるような趣味はなかったんですか?

石井 そうですね、例えば、休みの日は映画を見るとか、そういうのはありましたけど、でも人に言えるレベルじゃないんですよ。だからコーヒーくらい深くハマった趣味というのは、これまでなかったかもしれないですね。

――そこまで石井さんがハマってしまったコーヒーの魅力は、どういったところでしょうか?

石井 コーヒー単体もそうなんですけど、最初いろいろなカフェに行って気づくのが、“店によってこんなに味が違うんだ”ってことなんですよ。それはなんでだろうと考えたら、淹れる人によって違うってことに気づくんです。グルメな人はいろいろなお店に行って、さまざまな料理を食べると思うんですけど、そこに近い感覚だと思います。好きな一杯を求め続けている、という。

――なるほど! その熱の深さがこの1冊にまとまったわけですが、書籍になったのはどういう経緯だったんですか?

石井 僕のコーヒー&カフェ好きを追ってくれてた編集者さんがいらっしゃったみたいで、その方がKADOKAWAさんにお話していただいたらしいです。僕がインスタであげていたコーヒーやカフェについての投稿を、“こんな人がいます!”ってご丁寧にリンクまでつけてくださったみたいで、そこからKADOKAWAの方々も見てくださったようで。

――素晴らしいですね(笑)。石井さんのコーヒー、カフェ好きの熱の深さが出版社を動かしたわけですね。

石井 ありがたいですよね。

――最初、石井さんがコーヒーの本を出すってなったときに、いろいろなおすすめカフェやコーヒー豆が羅列されているだけの本を想像していたんですが、石井さんのパーソナルな部分まで書かれているのがとても面白かったです。きちんとした指南書にもなっているし。

石井 僕自身もここまで書くとは最初は思ってなかったので、逆にこの本を書くことで自分の中で深まっていくような感覚がありましたね。

――「石井さんにとってコーヒーとはなんですか?」と聞かれたとき、“すぐ答えられなかった”という趣旨のことを書かれていて。それはすごくわかるなと思いました。今や、それくらい石井さんにとって大きなものなんだなって。先ほど「コーヒーに出会うまでは趣味がなかった」と仰っていましたが、コーヒーにどっぷり浸かった今、どういう方がコーヒーに向いていると思いますか?

石井 お、難しいですね、ちょっと考えていいですか……。忙しい方ほどコーヒーって飲む機会が多いと思うんですよ。ただ、そういう方って簡易的に飲んじゃうことが多いと思うんです。でも忙しい方には、数分でいいので時間を取ってコーヒーを淹れてみてはどうかな、と思いますね。なぜかというと、僕自身がコーヒーを淹れている時間を使ってリフレッシュできている感覚があるんです。

――なるほど。淹れて飲んで落ち着く、だけじゃなく、淹れる過程でもリラックスできていると。

石井 はい。よくサウナに行く方が「整う」という言い方をしますけど、それに近い感覚ですかね。コーヒーを煎れてるときは、一旦いろいろなことを忘れて、無になっている。もちろん、コーヒーをうまく淹れることは考えているんですけど(笑)。

――(笑)。

石井 3分程度ですが、そういう時間を作る、というのはいいんじゃないかと思いますね。

――この本を読んでコーヒーを淹れる、ということに興味を持ったんですが、実際に石井さんがコーヒー好きで芸人として得したことってありますか? 例えば、コーヒーについて芸人さんから質問されたり……。

石井 そうですね。コーヒーやカフェに興味を持っている方は多くて「これ、どうなん?」って聞かれたりすることはありますね。劇場に出ている方に聞かれることはよくあるんですけど、それ以外でもありがたいことに、コーヒー好きとして番組でコーヒーを淹れることがあるんです。この前、かまいたちさんの番組で、ヒロミさんにコーヒーを淹れるっていう瞬間があって、一瞬淹れながら“なんやねん、この瞬間”と思って……芸人を志した頃には想像もつかへんなって。

――たしかに(笑)。

石井 それはとても面白かったですね。