インド映画『RRR』をご存知でしょうか。超高速の“ナートゥダンス”も話題となっていますが、インド映画史上最大の制作費となった97億円が投じられ、世界各国で上映されており興行収入は200億円以上。『バーフバリ』シリーズで有名なS・S・ラージャマウリ監督が手掛けた歴史超大作になります。昨年(2022年)10月から、日本でも公開がスタート。現在もロングランを続けています(2月10日現在)。

『RRR』の舞台は、イギリスの植民地だった1920年のインドです。今回の記事では、インドがイギリスの植民地になった経緯、インドで展開された独立運動の歴史を紹介します。インドの歴史を踏まえて作品を見ると、より一段と物語を楽しむことができるでしょう。

村の少女を助けたいビームと出世を望むラーム

この映画は、ビームとラームという2人の青年を中心に展開されていきます。

インド植民地経営の責任者であるバクストンは、森の中でひっそりと暮らすゴーンド族の村を訪れ、芸術的な才能を持つ少女マッリを誘拐。嘆き悲しむ村人たちの思いを胸に秘め、ゴーンド族の守護者ビームはマッリを取り戻すため、インドの首都デリーに向かいます。デリーでは「アクタル」という偽名を使いながら、懸命にマッリの行方を捜します。

一方、デリー近郊の警察署に勤務するラーマは、イギリスに対する高い忠誠心を持ち、任務を着実に遂行していました。ある日、マッリを連れ戻すためゴーンド族の守護者(ビーム)がデリーに潜伏している、という情報を植民地事務所が入手します。ビームに関する詳細な情報は何もありませんが「ビームを逮捕すれば、特別捜査官への昇格を約束する」とバクストン夫人は言い、候補者を募集します。そして出世を望むラームは、ビームの調査に名乗りを上げたのです。

デリーの市街地でラームが調査をしていたとき、大規模な列車事故が発生します。このとき偶然、現場に居合わせたビームは事故で逃げ遅れた少年を救うため、ラームと協力して少年の命を助けます。この出来事をきっかけとして、2人は熱い友情を育んでいくのですが……といったストーリーです。

〇映画『RRR』予告

ビームとラームは実在していた英雄

ラージャマウリ監督は『RRR』を製作するにあたって、クエンティン・タランティーノ監督から影響を受けたとインタビューで答えています。『イングロリアス・バスターズ(2009年)』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019年)』など、最近のタランティーノ監督は「歴史改編」の要素を多く取り入れています。悲惨な死を遂げた歴史的人物を映画上で蘇らせ、歴史のIF(もしも)を描くアプローチです。

『RRR』においてもインド史が大幅に改変されており、主人公であるラームとビームは実在した人物がモデルになっています。

ラームは「アッルーリ・シータラーム・ラージュ(1898〜1924年)」がモデルです。ラージュは先住民を率いてゲリラ戦を展開し、イギリスの植民地支配に対抗しました。イギリスは多額の費用を投じて、特殊部隊まで導入。反乱から約2年後にようやくラージュを捕まえたのです。ラージュはただちに処刑されてしまい、25年の短い生涯を終えます。

ビームは「コムラム・ビーム(1901〜1940年)」がモデルです。ゴーンド族出身の革命家になります。映画冒頭でも、バクストン夫妻がゴーンド族の村落を訪れて、マッリを誘拐するシーンがありました。当時のイギリスはインドの少数民族に対しても、過酷な統治を敷いていたのです。

ビームはゴーンド族と協力しながら小規模な反乱を繰り返し、反イギリス活動を継続的におこないました。しかし1940年、ビームは現地の武装警官に殺害されてしまいます。

ラージュとビームの活躍した時期がそれぞれ異なるため、2人の歴史的な接点はありませんが、インド解放のために命を捧げた2人が、“もし力を合わせたらイギリスを追放できたのでないか?”という歴史改変が含まれています。

さらに映画のストーリーは、インド(ヒンドゥー教)の神話である『ラーマーヤナ』がベースになっています。『ラーマーヤナ』とは、ヴィシュヌ神の化身であるラーマ王子が、羅刹の王(ラーヴァナ)を倒す物語になります。この作品においては、インドを植民地支配するバクストンをラーヴァナに置き換えることで、インド人の琴線に触れる“現代版”『ラーマーヤナ』へと昇華することに成功しているのです。

▲ラージュとビームの像 写真:Rim sim / Praveen Kumar Myakala / Wikimedia Commons