「終わってほしくない」と心から思った現場

――過去出演された中で「人生が変わった」と感じた作品は、どんなものがありますか。

宮下 根本宗子さんの作品ですね。『今、出来る、精一杯。』(2015年)という舞台で主演をやらせていただいたんですけど、当時は根本さんもまだまだ名が知られている最中の頃で。

根本さんの演出って、台本の一語一句を忠実に、役者に言わせるスタイルなんです。そのうえで「作品の世界観にどっぷり浸ってください!」っていう熱意も尋常じゃない。だから稽古場の緊張感もすごいですし、役者も「根本さんの目指すものに近づきたい」と必死なりすぎて、ほとんど毎日泣いていたくらいで。

その代わり、理想的な演技ができたときは「それです! 今の、めちゃくちゃ面白いです!」と言ってくれる。それくらい、全身全霊でぶつかってくれる方なんです。なので、根本さんの作品に参加したことは苦しくもあったけれど、あんなに“終わってほしくない”と思った現場も初めてでしたね。

――そうした経験があったからこそ、23年ものあいだ役者人生を歩み続けられている。

宮下 そうですね。あとは僕、人が好きなんで、この世界にいるといろんな人と出会って話を聞けることも楽しいんです。漫画も大好きでよく読んでいるんですけど、ちょうど今日(2月13日)発売の『ヤングキング』(少年画報社)で「外道の歌」という作品が最終回を迎えるんですが、作者の渡邉ダイスケ先生とお知り合いになれて、交流させていただいたり。

――そういえば、バスケ部に入ったきっかけも『スラムダンク』ですし、本当に漫画がお好きなんですね。

宮下 僕は芝居もコマ割りで考えていたりするので、かなり漫画に影響されていると思います。例えば『ブラッシュアップライフ』の「加藤の粉雪」シーンは、一コマを1ページまるまる使って描いているようなイメージで演技しています。

――さまざまなジャンルの表現方法を、お芝居に取り入れているんですね。演劇・映像の分野はもちろん声優など、幅広く活躍する宮下さんならではの発想だと感じます。

宮下 とにかく、いろんな表現に挑戦してみたいんですよ。コロナ禍で演劇の活動が制限されてからは、やりたいことが増えました。iPadを使ってイラストを描いてみようとか。

▲いろんな表現に挑戦してみたいんです

(iPadの画面を見せながら)例えば、これは僕が描いた「おはぎ」という名前の猫なんですけど……。

――これ、いま宮下さんが着ているTシャツのイラストですね。ご自身で描かれたものなんですか。

宮下 そうです。僕、猫が好きでずっと飼いたいんですけど、住んでいるマンションがペットNGだったり、仕事で帰るのが遅かったら可哀想だから飼えなくて。だから、猫作っちゃおうと思って。

――猫、飼いたすぎて作っちゃったんですか。

宮下 はい。僕、『バチェロレッテ・ジャパン』にハマって楽しみに見ていたんですね。“推し”の参加者もいたんですけど、彼が脱落しちゃった回が放送された夜は、本当にムシャクシャして。大量の酒を飲んで「ハァ〜……なんでだよ!」とか、ブツブツと言いながらダンボール切ってたら、猫になってて。

――推しへの愛とか、脱落したことのやるせなさが、ダンボールに猫の命を宿らせたんですね。

宮下 そうなんですよ。孤独が生み出した生物ですよね(笑)。玄関のところに置いておいて、毎朝「行ってきます」って声かけてます。

――狂気を感じつつ、ほっこりするエピソードでもあって不思議な気持ちになります。