年始早々スタートしたミュージカル『キングアーサー』でも好演した宮澤佐江。アイドルグループ卒業後、女優として舞台を中心に活動している。そんな彼女の3月17日(金)に公開予定の『犬、回転して、逃げる』は約10年ぶりとなる長編映画。

人気ボーイズグループ「7ORDER」の長妻怜央が映画初主演を果たした異色のサスペンス・コメディで、宮澤はヒロインの婦人警官、眉村ゆずき役を務めている。

カフェ店員だが、泥棒という裏の顔を持つ木梨(長妻怜央)が眉村の部屋に忍び込み、一仕事。ところが木梨の愛犬・天然くんが失踪、仕返しに盗まれたと勘違いした木梨は、眉村の部屋へ舞い戻る。街では爆弾予告事件が相次ぎ、小学生の誘拐騒動が発生。当の眉村は1日も早く世界が終わることを願っていた……。

同世代で等身大の眉村を共通点はなくとも、共感を持って演じたという宮澤。最近になって、やっとメンタルが強くなってきたと自負する。アイドル時代は仲間がいたのが強みだったが、同時に悩みがあったと懐古。時を経て、弱みを見せるのも強さと知った彼女が提示する、新しい宮澤佐江とは。

▲3月17日公開の映画『犬、回転して、逃げる』に出演する宮澤佐江にインタビュー

自分と正反対の日々を送る役は『アメリ』をイメージ

――最初に映画『犬、回転して、逃げる』の話を聞いたときには、どんな感想を持ちましたか。

「映像でのお芝居の経験をもっとしたいと思っていたところだったので、内容や役柄よりもまず、映画のお話をいただけたことが何よりシンプルにうれしかったです。気づいてみたら、ミュージカルや舞台の経験のほうが多く、その分、映像のお仕事はまだ探り探りなんです。カメラを通して伝えるお芝居は非常に繊細だなと思っています」

――役柄について教えてください。

「特別な役作りをして臨んだわけではありません。年齢設定も割と同じぐらいだったから、ありのままです。でもきっと、言われたことをただこなして生きているだけの人生、刺激がない日々をすごくつまらないと思っているということはわかりました。生きていてもつまらなくて、死にたいというより、早く世の中が終わっちゃえばいいと思うような気持ち。

私自身も日々、『苦しいな、つらいな、しんどいな』って思うことがあります。なんのために生きているんだろうと考えることもあります。きっと私だけじゃなくて、生きていたら、誰でも一度は考えたことがあることだと思うので、そういうところがとても共感できると思いました」

――とはいえ、宮澤さんは刺激的な毎日を送っていますよね?

「確かに刺激的ではありますね(笑)。ただ、正直に言えば、刺激にやすやすと耐えられるほど、メンタルが強い人間でもなかったりするんです。これまではアイドルとして10年間、仲間がそばにいてくれて、1人じゃなかったことが強みでした。そこを抜けてからは現場でも自分一人で活動しなければなりません。かなりのプレッシャーです。

良くも悪くも外部からの声が直で伝わってきたりもします。SNSが発達している世の中だからこそ、時に自分の中に大きくガツンとくらってしまったりもして、苦しいこともあります。刺激は刺激でありがたいのですが、もう少し、穏やかでもいいんじゃないかと思ったりもします」

▲アイドル時代は仲間がいて1人じゃなかったことが強みだった

――眉村さんの好きなこと、嫌いなことは極端ですが、そこに対しての共感は?

「最初の場面ですが、Suicaで自動改札を通り抜けられるかどうかと緊張しているところは、唯一、わかりました。たまに自分のスマホのSuicaをタッチしたら、ブブ~ッと鳴って改札のドアが閉まってしまったりすることがあって、うしろに人が並んでいるときは『本当にすみません。ごめんなさい』って気持ちになりますから。でも、あの意味のわからないステップみたいなスキップも含めて、ほかのことは全然共感していないです(笑)」

――あのスキップ、独特ですね。

「難しかったです。監督から顔合わせのときに『不思議なステップを考えておいてほしい』と言われたので、何パターンか見てもらったんです。3つぐらい候補を出しました。あとの2つはもう少しダンサブルというか、ちょっと得意分野のほうのステップだったんですけど、一番謎の、不恰好な、ダサいやつが選ばれて。最もやりたくないやつでした(笑)。映像で見て、案の定、恥ずかしかったです」

――酔っ払って、床に寝転ぶのはどうですか。

「あれも全部、ト書き通りです。自分自身、酔っ払って、あんなに浮かれるようなタイプの人間ではないので、人生で初めて床を背泳ぎしました(笑)。これから先も、あんなに酔っ払って床で背泳ぎすることはないんじゃないかなと思いつつ、眉村は広いお部屋に住んでいて、うらやましかったです。私の家より、ずっと広いです(笑)」

――コメディは難しいと聞きますが?

「確かに台本を読んだときはとてもシュールだと思いましたが、撮影中はコメディだと意識していなかったので、笑いを取りに行こうとも思わなかったです。監督が『アメリ』の世界観をイメージして作りたいとおっしゃっていたので、作品を見てみたんですが、とにかく、かわいくて。

台詞がそんなに多いわけではなくて、顔の表情だけで、爆笑ではない、クスッと笑える瞬間を作る。監督の思い描く世界観が具体的に見えてきました。コメディらしいお芝居するのではなく、シンプルな普通のやりすぎないお芝居をしていたほうがシュールに見えるかなと思って、心がけていました」