20分ほど繰り上がった終電は元に戻らない

コロナ禍でのダイヤ改正を最も実感するのが、“終電”ではないだろうか。首都圏、関西圏の多くの路線で20分前後早まっている。

2019年時点で都心部から最も遅く出ていた下り列車の終電は、池袋発赤羽行0時41分。これが0時22分発に繰り上げられた。赤羽行に乗っても埼玉県民は帰宅できないので、実質的には新宿駅23時47分発川越行を終電とする人が多いだろう。川越行きの最終便が大宮止まりになったため、川越まで帰ろうとするとこの電車に乗る必要がある。

根岸線でも、大船発蒲田行の終電が磯子止まりになるなどしている。中央線の東京駅発高尾行は、0時15分から23時45分に繰り上げられた。終電が30分早くなっているので、従来の感覚で駅に向かうと驚くことになる。ほかにも京葉線の東京駅発蘇我行が0時35
分から0時5分と、30分繰り上げられた。

しかし、かつて見られた終電を逃すまいと居酒屋を出て駅に足早に向かう様子は、今はあまり見なくなった。終電の乗客も減っている。店も閉店時間を早めており、定着していく雰囲気がある。東京都内は、このまま20分ほどの“ダウンサイジング”が行われるのだろう。

都内のダウンサイジングは、人手不足や労働基準法の改正も影響している。店員が不足するため、開店時間を維持できない。また、労働基準法では、すべの企業が月60時間以上の残業を超えると、時間外手当を1.5倍以上に設定しなくてはならない。

大企業ではすでに開始されているが、2023年4月から中小企業をふくめてすべての企業が対象になる。そもそも2019年4月に施行された労働基準法改正で、36協定による労働
時間の延長限度を60時間としている。

この残業時間内で働こうとすれば、終電まで仕事して……という状況はそうそう出てこない。令和になり働き方改革の動きはさらに強まっている。それは、飲食店や小売店などで働く人たちも同様だ。

もはや終電は、再度繰り下がる理由がなくなっている。たかだか20分ほどという見方もあるだろうが、東京都の昼間人口は1500万人ほどいる。そのうち300万人近くが神奈川県、埼玉県、千葉県から流入している(2018年総務省統計局)。それらの人々から一様に“20分”が差し引かれるわけだから、その影響は大きい。