「頭がいい人」とは、より簡単な作業で速く結果が出る「解ける問題」を見つける人です。上司や顧客にから“問題”を与えられたときに、どのような思考をすればいいのか。ロジカルシンキング塾の塾長である苅野進氏が、最小の時間で効果を最大にする方法を解説します。
※本記事は、苅野進:著『考える力とは、問題をシンプルにすることである。』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
LINEに登録するだけで「割引」してくれる理由
たとえば、あるテーマパークが売り上げの少なさに悩んでいたとします。
お客さんを集めるために、ネットや雑誌など、さまざまな広告を出そうと検討するのは常套手段です。テレビ広告など、あなたもよく見かけることでしょう。
しかし「来場者を増やす」ことだけが、テーマパークの売り上げを増やす手段でしょうか。
一般にメディア広告は、資金の投下効率があまり高くない手段になりつつあります。認知度を上げて、集客に結びつけるには膨大な量の広告が必要ですし「どんな広告が子どもを引きつけるか」には芸術的な演出の占める部分が多く、非常に難しい問題なのです。
すでに来場してくれているお客さんにアンケートをとったところ「もっとしっかりとした食事を摂りたい」「お土産を充実させてほしい」「有料でもいいから優先搭乗のシステムが欲しい」などの要望があることがわかりました。
お金を払ってでも、満たしてほしいニーズを持っていたのです。つまり目の前に、より現実的で効果的な解決すべき問題が存在していたのです。
一般的に「経営状態を良くしたい」と考えるとき、真っ先に思いつくのが「新規の顧客を獲得する」というものです。
しかし、新規の顧客の獲得というのは非常に難しく、コストがかかるものです。当事者から見ると非常に良くできた製品や宣伝であったとしても、通りがかりの人々にしてみれば大量に流れていく景色みたいなもので、なかなか目には止まりません。
だからこそ企業は、少しでも興味を持ってくれた人を手放さないように、LINEなどでつなぎとめようと必死になります。
LINE登録だけで大きな割引をしてくれて驚くことも多いかもしれませんが、それくらい新規顧客との接触や獲得は高コストなのです。
そうすると、一度は興味を持ってくれて、購入にまで至ってくれた既存顧客というのが最も重要だというのは明らかです。
二度、三度来てもらうためにはどうしたらいいのか。同じものだけではなく、さらに購入してくれるものは何か。こういった情報を目の前にまで来てくれている既存顧客から引き出して、提供していくというのは当然の戦略になります。
既存顧客からの声に応えることは、じつは効率の良いマーケティングにもつながります。SNSなどで発信される既存顧客の満足度の高い情報発信こそ、最も影響力のある広告です。
これは、新規顧客と既存顧客のどちらに問題設定をするかという例です。問題設定の仕方で、コストも効果も大きく違ってくるのです。
「自分の頭で考える」ことで評価は上がる
顧客から問題を与えられたときにも、非常に注意が必要です。
顧客自身が問題設定を誤っていたために“解決したにもかかわらず、顧客の満足度が低い”という目も当てられない結果になることが少なくないからです。
People don't want to buy a drill. They want a hole.(人はドリルを買いたいのではない。穴を開けたいのだ)
という、有名な言葉があります。
顧客の求めるがままにドリルを販売したら「保管場所がない」「久しぶりに使ったら動かない」などと不満が噴出。顧客の本当の問題は“ドリルを買う”ではなく、“穴を開ける”であるので、ドリルを売っても顧客満足は達成できないというお話です。
私が経営コンサルタントだった頃、ある企業の新卒採用のお手伝いをしていたとき、担当者から「今年2000人だった応募者を、来年は3000人にまで増やしたい。予算も確保するつもりなので戦略を提案してほしい」と依頼を受けたことがあります。
額面通り「3000人の応募者を集める」という問題を設定して、それを実現するための広報戦略と予算の提案をすることはもちろん可能です。
しかし、私は「なぜ、3000人なのか?」と考えることから始めました。言うまでもなく、企業の採用の目的は「必要なレベルの人材を、必要な人数だけ採用する」ことです。言われるがままに「3000人の応募者を集めました」という問題解決をしても、「応募者が増えたのですが、理想の人材の採用には至りませんでした」という結果になっては意味がありません。
「3000人の応募者を集める」という要求に応えた私の評価も理不尽にも下がってしまうことでしょう。
ヒアリングを進めると「去年の営業部の新人は非常に好評だった。やはり、新人が入ると部署に活気が出るので全部署で新人を配属したい」という話が発端であることがわかりました。
地方支社まで含めた全部署となると、昨年の“営業部の新人”とは必要な能力が違います。
昨年と同じような採用広告を使って応募人数を増やしたところで、管理部門や技術部門に適性のある人材の応募が増える見込みは少ないのです。
問題は3000人という人数ではなく「応募者の“質”をどう変えるか?」「昨年とは違った人材に届く採用広告、募集メッセージは何か?」を考えることだと、私は採用担当者に伝えました。
管理部門に向いた人材、技術部門に向いた人材を細かく分析して採用戦略を立案することにしたのです。