「異業種にチャレンジしたい」「スキルアップしたい」「より良い環境の職場で働きたい」「年収をUPさせたい」……など、転職の理由はさまざまです。しかし、現実には転職先でうまくいかなくなることもしばしば。キャリアアップ成功への第一歩を踏み出すために、転職経験を活かし複数企業の取締役を務める村井庸介氏が「ずらし転職」について紹介します。
※本記事は、村井庸介:著『ずらし転職 -ムリなく結果を残せる新天地の探し方-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
自分が重宝されるポジションをつくる
1000人に1人のキャリアをつくる方法。
そういうと、少々大げさに聞こえるかもしれません。たとえば、必死に努力を重ねて仕事だけに人生を捧げて得るようなキャリア。もしくは、特殊な才能をもった人がつくりあげるキャリア。年収を大幅に上げていくためには、それくらいのことをしてキャリアをつくりあげていかなければならないのでしょうか。
はたしてそうかというと、そんなことはありません。最大のポイントは、いろんな仕事を経験して、戦う領域を絞っていくという考え方です。1000人に1人といっても、既存の世界で上位に食い込んでいく必要はありません。たしかに上位に食い込めれば年収は上がりますが、ビジネスで大切なのは上位にいることではなく、重宝されることです。
「マーケティングのプロフェッショナルでナンバーワンになる」というと、たとえば大手外資系ブランド出身者に勝つのは難しいですが、そこに「デジタル」という要素を掛けるだけで、少し勝てる兆しが見えてきます。
さらに、そこに個別の「産業」という要素を掛けて、これまでマーケティングが行き届いていなかったという分野で挑戦することができると、そこで実績が出せたときに「その分野であれば、この人にマーケティングを聞いたほうがよい」という評価が得られやすくなります。
このように「この分野のことだったら、あの人に聞いてみよう」というポジションをいかにつくるかというのが、重宝されるきっかけになる重要なポイントです。1000人のなかでナンバーワンになるのではなく、あくまで1000人いて1人しかいない人材になることが大事なのです。
もちろんナンバーワンを目指すのもよいですが、10年20年先を進む先輩方がいるなかで、同じ分野で同じ戦い方をするのは効率が悪いといえます。明治維新の新撰組に刀では太刀打ちできなくても、素人であっても騎馬隊を用意すれば勝てるかもしれない。このように、どこか戦う場所・方法を変えるのも、戦略のひとつです。
人が少ない分野を狙って挑戦するというのは、効率的に希少性をつくれる良い方法です。
社内で出世したいと思ったときに、簡単に先輩の経験実績を軽んじてはいけません。
先輩方には、これまで市場で積み重ねてきた経験があります。真っ向から戦うよりは、自分の希少性を磨くことに力を入れてみるとよいでしょう。
掛け算の要素として、産業を横軸として渡っていける力を身につけることをおすすめします。さらに産業固有の知識ではなく、マーケティングや営業、経理のように、いろんな業界を渡れるような力があると強いでしょう。
社内でも「新しいテーマ」をもっておくと強い
また、個人的におすすめしたいのは、とにかく新しいテーマを選ぶということです。特に若い人は、熟練者があまりいないテーマを選ぶとよいでしょう。先述したように、10年、20年で培った経験と人脈、知識を数年でひっくり返すことはかなり難しいです。目標に設定するのは、あまり賢いとはいえません。
一方で、今まで経験を積んできた人たちは、あえて自分のキャリアを捨ててまで失敗するかもしれない領域に挑戦するという選択を取りづらく、つまりチャレンジしにくいので、若い人のほうが新しいテーマに対して積極的に経験をつかみにいきやすいのです。そうして新しいテーマで掛け算の要素がつかめれば、あとは自分の好みでほかの好きな産業と掛けあわせていくこともできます。
あたらしい産業やテーマに旗を立てておくと、経営者や上層部の目にとまりやすいという利点もあります。会社のトップにいるような人たちは「最近、このテーマについてよく耳にするけど、実態はどうなっているのかわからない」と思っていることがあります。新しい分野についての知識をもっていると、年齢やポジションに関係なく直接上層部と話をする機会を得られることがあり、キャリアが広がるチャンスをつかめます。
たとえば、60歳の取締役員同士の会話で「最近流行しているTikTokって、どうなっているの?」と話題にあがっても「名前は聞いたことあるけど……」となってしまいます。しかし「私は個人でTikTokを配信していて、フォロワーがこれだけいます」という情報が上層部の耳に入ったら「一度話を聞かせてほしい」と声をかけてもらえる可能性が高まります。
そこから「実は企業のマーケティングにおいても、TikTokを使っている企業は業績が伸びていて……」と伝えるだけで、会社の動画マーケティング担当を任せてもらえたり、もしかしたら会社のなかで専任の部署をもたせてもらえたりするかもしれません。キャリアのチャンスはどこにあるかわからないのです。
私の知り合いに、この“横道”を使って30歳で事業部長になった人がいます。もともと大学時代に落語家を目指していたような人で、芸能の分野に興味があったのですが、結局、人材派遣会社に就職をしました。
しかし、芸能が好きだったので、会社のなかで舞台や音声ナレーターといった芸能系のプロ人材を、イベント会場やイベントショーを行う企業に派遣・紹介する事業を立ち上げたらおもしろいのではないか、といった趣旨の企画を考えました。すると、偶然にも社長が、ちょうどプロ経営者人材のような人を社内で育成したいと思っていたようで、彼の企画が採用され、30歳で事業部長に抜擢されることになったのです。
その後も、社長と密にコミュニケーションをとれるようになり、会社の悩みや組織の悩みなど、個別の相談を受けるような関係を続けています。
現在、事業部長と人事部長を兼任でやってみないか、という打診もされているようです。営業一本のキャリアを続けていたら、あと10~20年かかるようなポジションです。たまたまできた横道にうまく乗っかったことで、彼は上手にキャリアを切り開くことができました。
新しいテーマや社内で誰もやりたがらない仕事をになってみるというのは、上層部と接点が持てるきっかけになります。