結末のテイストはバラバラにするようにしてます
――こんなことを聞くのは野暮ですが、『憂鬱探偵』で特に気に入ってる話ってありますか?
田丸 優劣ということではないのですが、「なかなか料理がこない」のフードランナーは我ながら“アホだなぁ”と思いますね(笑)。こういうアホらしいというか、いろいろ理屈は書いてますが、“冷静に考えるとおかしい”みたいなことを考えるのが好きなんです。
――想像するとおかしいですね(笑)。
田丸 ありがとうございます。主人公の西崎もおかしいと感じるはずなんですけど、そこに巻き込まれて踏み込んでみたら、思いのほか熱い世界が広がっていて、理屈ではなく感情で突き動かされて、気がついたら応援してる、みたいな。
ありえない職業やアイデアを、いかに“もしかしたらあるかもしれない”と思ってもらうかを考えながら書くのがとても好きです。それと、最後の「月曜日は気分が沈む」ですかね。
――終わり方で“おおっ……”と思いました。
田丸 そうですね。ビジュアル的に現実世界ではありえない光景で終わらせるというタイプの結末なんですが。これも気に入ってる作品ですね。
――たしかにビジュアルをイメージしました。
田丸 うれしいですね。先ほど話しましたが、そもそもこの企画が立ち上がったきっかけが「月曜日の憂鬱をやわらげる提案」だったので、この話は書かないといけないと思っていたのですが、“月曜日が憂鬱”ってものすごく漠然としてて、形がないじゃないですか。そして、誰もが感じている憂鬱だからこそ、ハードルが高いんですよね。
そもそも、この題材を入れるのをやめようかと思ったこともありましたけど、“ここを避けたらダメだよね”って思いなおして、どうやってやろうかとすごく悩みながら書きました。そういう意味では一番苦労した話かもしれないですね。
――これは感想になってしまうのですが、ショートショートって最後の一行でキレよく落とす、みたいなイメージだったのですが、田丸さんの作品はそこに囚われていない印象を受けました。最後の一行で決める作品もあれば、ふわっと余韻を残して終わる作品もあって。ショートショートのイメージが、田丸さんの作品を読んで変わりました。
田丸 それはありがたいですね。実はそれは意識的にしてることでして。セミプロの方には「ラスト一行でいつでも決められるようになっておいたほうがいい」とは伝えます。僕自身も初期はそんな作品ばかり書いていて。でも、書いているうちに“それだけじゃない”と気がつくようになっていきました。
ショートショートの名作と言われるような作品のなかにも、ラスト一行で決めるような“オチ”の強いものではなく、ふわっと余韻を残して終わるものもいっぱいあるんですよ。
もちろん、ラストのオチに重きを置いた作品もいいものですし、それはそれで僕も好きなんです。が、ショートショートの本質はそれだけではない。印象的な結末であれば、ショートショートは成立すると僕は考えています。なので、意識的に結末のテイストはバラバラにするようにしています。
――ショートショートのワークショップをされていますが、そこでは創作メソッドを公開されているじゃないですか。それって、ラーメン屋さんが自分のレシピを公開してるようなものではないかと感じたんです。ご自身の手の内を明かすことに抵抗はないのでしょうか?
田丸 抵抗はゼロですね。理由がちゃんとありまして、僕はライバルとなるような新しい書き手が出てくることに対してはポジティブに捉えてます。「パイを奪い合う」という考え方をするからライバルの出現をイヤがると思うんですが、そうではなくて「パイは広げあう」ものだと思ってるんですね。
ショートショートは残念ながら一度下火になってから、今また徐々に盛り上がりつつある状態なんですが、まだまだ広がる過程であって、もっとポテンシャルはあると思うんです。もっと書き手が増えれば、例えば「田丸の作品はあまり肌に合わないけど、この人の作品は面白いな、ショートショートいいな」と感じる人も増えてくると思うんです。もちろん僕の作品も好きになってほしいですが(笑)。
――(笑)。
田丸 僕はショートショートという形式がとても好きなので、自分がトップランナーでやっていきたいという思いと同じくらい、ショートショート業界を盛り上げたいという気持ちがあります。なので、むしろライバルが増えることはうれしいですし、そうしないといけないと思ってます。
レシピという点で言うと、創作って最後はオリジナリティなんです。「自分で考える」ということにすごく意味があって、同じ題材やテーマで書いても自分なりのものが出せるんです。なので、そこを公開することに対する不安は全くないですね。
――なるほど。
田丸 それと、ワークショップでやっている発想法は「言葉と言葉を組み合わせる」という方法なのですが、僕はその他にも発想法を持っていて、あれだけが全てではないんですね。
それに「言葉と言葉を組み合わせる」発想法も、誰でもやりやすいようにワークシートに落とし込んでいるので、あれを実際に自分がやっているわけではないんです。もしかしたら、手の内を明かしてるように見えるんですが、実はそうじゃないのかもしれないですね。
――間口を広げているという感じですね。
田丸 そうですね。別に手の内を明かすことにも抵抗はないので、他のことでも聞かれれば答えます。先ほども言いましたが、最後はオリジナリティなので。