爆笑問題は今年でコンビ結成35周年を迎える。デビューライブで太田プロにスカウトされるという、これ以上ないスタートを切った爆笑問題だが、その後の道のりが平坦ではなかったことは多くのメディアで語られている。近年でも選挙特番や『サンデー・ジャポン』での発言がたびたび炎上してしまう太田光。そんな彼の人生の土壇場について聞いてみた。

▲俺のクランチ 第23回(後編)-太田光-

井口が落ち込んでいる気持ちを理解できない(笑)

3月に発売した『笑って人類!』(幻冬舎)の作中でも、登場人物たちがさまざまな土壇場に直面する。そのたびに叡智を結集させて、その土壇場を乗り越えるのだが、太田の人生における土壇場はいつだったのか?

「周りから見ると土壇場だらけだと思うんだけど……俺も田中も楽天的で、どっちかっていうと本当に忘れちゃうんですよね、あはははは!(笑) あっけらかんとして、周りが思うほどツラいとかは思ってないかもしれない……。あ、でも、今もそうだけど、ネタ作りはずっと土壇場っていうか、ツラいね(笑)。ほとんど使い捨てだから」

コンビ結成後、すぐに太田プロの所属となり「第二のツービート」として華々しくデビューした爆笑問題。その後、事務所を独立し、長く冬の時代を過ごすことになる。そんな彼らが再度注目を集めたのは『NHK新人演芸大賞』と、勝ち抜きネタ番組『GAHAHAキング 爆笑王決定戦』だった。

「この2つはハメないと(成功させないと)いけないって気持ちはありましたね。たしかに土壇場だったな。『GAHAHAキング』は10週勝ち抜かないといけなかったんだけど、この2つは同時進行だったんですよ。で、『GAHAHA』の3周目にNHKがあって。NHKで大賞を取らないと、『GAHAHA』のこのあとの審査にも影響するなって。

一緒に出てるのが、フォークダンスDE成子坂とか、海砂利水魚(現くりぃむしちゅー)とか、自分たちより後輩だし。あのときのネタ作りは本当にキツかったですね。もうこれでダメなら、俺たちはダメだろうなと思ってたし」

昨年のM-1チャンピオンであるタイタン所属のウエストランドが、以前のM-1予選で敗退した際、その結果にあまりにも思い詰めて変なテンションで行ったラジオを、後日、太田と田中が笑いながらツッコんでいたのだが、そこで太田が言った「本当、ウエストランドの気持ちがわからないんだよ。爆笑問題は、こういうときに絶対ハメてきたから」という言葉が印象的だった。きちんと結果を残してきた人間だからこその含蓄のある言葉だ。

「申し訳ないけど、俺たちはここぞっていうところでは絶対に結果出してきたから、井口が落ち込んでいる気持ちを理解することができないなって(笑)」

実際に圧力受けてたら言うに決まってるじゃん

太田といえば、「太田光をテレビに出すな」というハッシュタグが作られるほど多くの炎上を経験しているが、特に印象に残るのが2021年のTBS『選挙の日2021 太田光と問う! 私たちのミライ』放送後の炎上だ。

政治家への態度が炎上を招いていたが、この番組での太田は選挙特番のMCという立場を理解し、それぞれの候補者の公約や政治信条を勉強して理解し、そのうえで政治信条と政治家の行いは一致しているか、ということを追求しているように思えた。

昨年も『選挙の日2022 私たちの明日』で太田はMCを務め、自民党の河野太郎氏に対し、核の最終処分場について、当時2つの町しか議論されていないことや、自民党による広報に問題があるのでは、と疑問を呈していた。

「この『笑って人類!』で、読んだ人の反応を気にしているところがいくつかあって。1つは、この最終処分場について書いたところなんです。東日本大震災によって原発事故が起こって、現在は原子力発電にともなって発生する、高レベル放射性廃棄物の最終処分場が問題になっている。これもゴールを決めないまま始めちゃってるから、今、問題として浮き彫りになっていると俺は思うんです。

この作品では、事故によって人がいなくなったのをいいことに、人がいなくなった地域の地下を核の最終処分場にするって話だから。もしかすると、福島の人たちは読んだらイヤな気持ちになるかもしれないなって。

でも、下手すると、この先そんなことが起こりえるんじゃないの? と感じてるから、この前の選挙のとき、河野さんにその疑問をぶつけたんだけど……見ました? あれズルかったと思わない? “こんなところでわあわあ議論しても仕方ない”みたいなスタンスだったから……逃げたんだよね。

でも、勘違いしてほしくないのは、俺は河野さんのこと、信頼してるんです。だからこそ、あのスタンスはないと思ったし、次会ったら、とことん聞いてやろうと思うんだけど」

▲政治については言葉を選びながら、しっかりと語ってくれた

「高市(早苗)さんもそうだね、最初の選挙特番で森友学園の公文書改ざんについて聞いたんだけど、それも、彼女の政治信条を照らし合わせたら、こう言わないといけないんじゃないの?って思いから、ずっと問いかけたんだよね。これも、次また会ったら、ちゃんと議論したいです。

ただ、今は放送法のことで高市さんが責められているけど、これは僕個人の意見として聞いてほしいし、自民党をかばうわけじゃないけど、本当にそういう圧力があるんだとしたら、自民党はあんなに選挙特番で無礼を働いた俺に“次も特番をやらせないだろ”って思っちゃうところもあんだよね(笑)」

それで思い出したのが、爆笑問題のNHKの新春ネタ番組にまつわる話だ。その番組で、いつも担当しているディレクターではなく、新しく担当したディレクターから「政治ネタは控えてくれるとありがたい」という旨を伝えられたことを田中裕二がラジオ番組で明かし、リスナーからは「検閲だ」「政府の圧力だ」という騒ぎになった。

次の週、太田は「完全に誤解」「自分たちの伝え方が甘かった」と謝罪。このフェアさこそが太田の正しいところだと感じたのだ。自民党や政治に対して不満があるなら、本意じゃなくてもそのままにしておけばいいし、わざわざ炎上している火の中に飛び込む理由はないからだ。

「そっち側に取りたい人がいるのもわかるけど。でも、それは完全のそのときのディレクターの個人的な判断でしかなかったから。そもそも、本当に今まで一回もそういう圧力というものを受けたことがないんですよね。で、実際に圧力受けてたとしたら、俺みたいなヤツ、圧力を受けましたって言うに決まってるじゃん! そこがわからないかなって」