カタールワールドカップの象徴「三笘の1mm」

すがや 表紙には、日本サッカー史に残るであろう「三笘の1mm」の写真が使われていて、“W杯の感動が追体験できる一冊だな”と思いました。発売後の反響はいかがでしたか?

安藤 とにかく表紙のインパクトがあるので「それに伴うような物語を書かないといけない」というプレッシャーは正直ありましたけど、きちんと書き上げられたことで、自分の中にも自信が芽生えたような気がします。すがやさんの知り合いは、僕の本について何か言っていましたか?

すがや 現地で観戦した僕の友人たちも「W杯の感動を思い出せてよかった」と話していましたよ。僕自身も、本を読み進めていくにつれて、どんどん選手への愛着が湧いてきて、感動が深まっていく感覚がありました。

安藤 僕が取材したものをそのまま載せているので、臨場感は楽しんでいただけているのではないかなと思います。

すがや この本に載っているのは、育成年代だった頃の選手たちの言葉なので、少しぎこちない部分もありますが、安藤さんの質問に本音で答えてくれているように感じました。

安藤 たくさんの記者たちを前にした囲み取材だと、選手たちはなかなか本音を話せないと思うんですけど、僕は会見で選手たちの発する言葉を聞いたときに「昔の彼だったらどんな言葉で話すんだろう?」と考えるようにしていました。

もし、昔の言葉と今の言葉の表現の違いを見つけたら、そのあいだにどのような変化があったのかを探ってみる。そして、経験が伴って語彙力が上がったのか、それとも発するメッセージが増えたのかを考えながら、取材で選手たちに質問をぶつけてみる。そのような流れで、選手たちの歩みを描きだすことを意識しました。

▲安藤氏の話を食い入るように聞くすがやさん

すがや 安藤さんが今回W杯で印象に残っているシーンはありますか?

安藤 グループリーグ2戦目のコスタリカ戦の試合後に、堂安律選手が落ち込んでいた姿ですかね。ギラギラしていて負けん気の強い堂安選手が、ふとした瞬間に落ち込んでいて。その姿は若い頃の彼とリンクするところがありましたし、彼の本質は今でも変わらないことがわかって、僕自身もどこか“ホッとした部分”がありました。

▲ワールドカップに出場した選手たちの過去の取材の思い出を話してくれた

すがや 一番こだわった点はどこですか?

安藤 ドーハの歓喜を表現しつつも、一方にあるベスト16で負けているという現実を書くことを重視しました。おそらく決勝トーナメントを勝ち進むのは、想像以上に難しいことだと思うんですよ。予選で勝つことができたドイツやスペインも、決勝トーナメントで当たっていたら、同じような結果かどうかはわからない。「予選を突破しておめでとう」だけではなく、今後に向けた戒めも本の中に盛り込んでいます。