南野選手のストーリーを最終章にした理由
すがや 過去に取材した選手たちの活躍を、安藤さんはどのような気持ちで見ていましたか?
安藤 兄、保護者、一般客という3つの視点で見ていました。僕が育成年代の選手と話すときには「ひとりの大人として向き合いながら、フラットな目線で話すこと」を一番大切にしているんです。しっかりと自分の考えを持っている選手は、プロに進んでからも活躍しているように感じますし、僕にとっても成長のストーリーを書きやすいんですよね。
すがや 会話だけでも活躍する選手がわかるんですね。選手たちの印象に残っている言葉は何かありますか?
安藤 かつて、関東トレセンMVPの小さなトロフィーを掲げて喜ぶ田中碧選手に質問をしてみたことがあるんですけど、徐々に話を掘り下げていくと「日本代表として、もっと大きなトロフィーが欲しい」と話してくれて。実際に彼はスペイン戦でMVPを獲得して大きなトロフィーをもらっていました。まさに彼は有言実行を果たしたのです。
こうして育成年代からW杯までのストーリーがつながると、取材している僕にとっても幸せですし、やりがいを感じますよね。そういう意味でも『ドーハの歓喜』という本は、自分のジャーナリスト人生の集大成になったなと思います。
すがや 丁寧な取材をされている安藤さんにしか書けない作品だと思うんですが、『ドーハの歓喜』というタイトルはどのように決まったんですか?
安藤 もう少しドキュメンタリーっぽいタイトルにしよう考えていたんですけど、直前で「三笘の1mm」の写真を使わせていただけることになって。シンプルでわかりやすいタイトルをつけました。
すがや ちなみに、最初はどんなタイトルにしようとしていたんですか?
安藤 恥ずかしいじゃないですか(苦笑)。『夢の後に…』とか『狂乱の後』という感じのドキュメンタリータッチにしようかなと思っていたんですけど……言わせないでくださいよ!(笑)
すがや すみません(笑)。どちらかというと、未来を見据えた内容だったんですね。この『ドーハの歓喜』を通して、安藤さんが読者に伝えたいことはなんですか?
安藤 「いま経験していることは、絶対に未来につながる」ということですね。どんなツラい思いをしている人も、それがきっと自分の将来につながっていくはずなので、サッカーを通じてそれを知ってほしいなと思います。
すがや 劇的なW杯を書いた『ドーハの歓喜』は、背番号10を背負った南野拓実選手のストーリーで締めくくられています。おそらく不本意なW杯に終わった南野選手を選手の章での最後の章に書いているところに、安藤さんの強い思いを感じました。
安藤 南野選手とはこれまでにたくさん濃い話をしてきて、彼がいろいろな苦労してきたことも知っている。僕自身の思い入れの深さが一番の理由ですね。W杯で結果が伴わなかったから、全部が“ダメ”というわけではなくて。あまりうまくいかなかった選手にも大会までのドラマはあるし、それがまた未来につながっていくと思うんですよ。
(代表入りを逃した2018年ロシア大会に続き)南野選手にとっては二度目の失敗ということになるのかもしれませんが、それで全てが終わりではない。人生には綺麗な勝利をあげられないこともあるけれど、挑戦は何度でもできる。
僕の本なので、南野選手の諦めない姿勢や、チャレンジを続けるすごさも伝えられたらなと思って、選手の章の最後に彼のストーリーを書き記しました。
すがや なるほど。そういった思いがあって最後に持ってきたんですね。安藤さん、今日は貴重なお話をありがとうございました!
安藤 こちらこそ、ありがとうございました!