欧州連合(EU)欧州議会は12月15日、旧ソ連下のウクライナで起きた大飢饉「ホロドモール」を、ジェノサイド(大量虐殺)と認定しました。ジェノサイドとは、ある民族や集団を計画的、人為的に抹消することを目的にした行為を意味します。ナチス・ドイツによっておこなわれた「ユダヤ人の大量虐殺」などが当てはまります。

「大飢饉が、ジェノサイド?」

 一見すると疑問を感じるかもしれません。ホロドモールは世界史の教科書でも扱われていないため、このウクライナで起きた悲惨な出来事を知らない人も多くいます。そこで今回は、ソ連のスターリンが実施したホロドモールについて紹介します。

「ホロドモール」の原因はスターリン

ホロドモールは1930年代初め、ウクライナで発生した大飢饉です。「ホロド」は「飢え」を、「モール」は「絶滅」を意味します。この大飢饉の原因は、ソ連の指導者であったスターリンがおこなった政策にあると言われています。

▲スターリン 写真:パブリックドメイン / Wikimedia Commons

1928年、スターリンは「五カ年計画」を発表します。イギリスやドイツなどの工業国に追いつくため、ソ連の工業化を推し進める計画です。この五カ年計画を進める資金調達のために利用されたのがウクライナになります。

ソ連の構成メンバーであったウクライナは、当時から「ヨーロッパの食料庫」と呼ばれる穀倉地帯でした。ソ連はウクライナの穀物を海外に売り、外貨を獲得しようとしたのです。

共産主義を掲げるソ連は、資本主義とは異なり「私有財産」を認めません。土地や農作物を含め、全てが国家の「所有物」になります。

ウクライナにおいても、スターリンは「土地の国有化」を進めました。簡単に言うと「ソ連がウクライナの土地を全て没収し、穀物生産の計画を立てる」というものです。穀物の生産量は、ソ連によってすでに決定されているため、ウクライナの農家にとっては過酷な「ノルマ」になります。

穀物の徴発は厳しく、ウクライナの国民には食料が何も残されませんでした。

歴史とは勝者によって紡がれるもの

食料が手元にないウクライナの人々は、自分が飼っていた犬、雑草や革製品をお湯でふやかして食べるなど飢えを凌ぎました。なかにはお墓を掘り出し、人肉を食べる人も……。

海外に輸出する穀物を備蓄する倉庫で、子どもたちが空腹のあまり盗みを働いてしまったのですが、スターリンは子ども全員の射殺を命じています。

スターリンが主導した五カ年計画によって、700万〜1,000万に及ぶウクライナの人々が犠牲になったと言われています。ホロドモールは、スターリンによって人為的に引き起こされた大量虐殺なのです。

今までホロドモールが公にされなかった理由は、スターリン率いるソ連が第二次世界大戦に勝利したことが大きかったでしょう。第二次世界大戦は、連合国(アメリカ、イギリス、ソ連、など)と枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)のあいだでおこなわれ、連合国の勝利で終わります。

歴史は戦争に勝利した側によって、都合よく隠蔽、加工されるからです。五カ年計画は、世界恐慌(1929年)のダメージを受けなかった経済政策として、むしろ好意的に解釈されている傾向すらあります。

しかし、今回のロシアによるウクライナ侵攻で、今まで黙認されていたホロドモールが一気に明るみになった印象です。今後もスターリンを含めて、旧ソ連時代の悪行が次々と暴かれていくのではないでしょうか。