文字に加え飛び出す絵本のように、QRコードで映像と音が出る

――音を文字で伝える大変さをどう感じていましたか。そして、なぜ書籍という表現だったのでしょうか。

山口 『LISTEN.』=「体感」がテーマです。頭で理解したつもりになるのではなく、細胞自体がバチバチとスパークするようなときめきや、体自体が喜び溢れる、その感覚を大切にしています。それはインターネット時代であっても、この肉体がある限り忘れてはいけない大切なことだと思います。

実際に人に会ったり、生の声を聞いたり、「体感」を大事に進路を探して進む旅は絶対に面白い。リサーチしている時からイメージは膨らみ、楽しい旅は始まっています。そんな時にこの本を開いていただきたいです。もちろん、綴っただけで全部の感動をお伝えできる文章能力があればいいのですが、そこを補足できればと、進化したテクノロジーの利点と合体させて各章にQRコードを付けています。

携帯電話で読み取るだけで、一瞬にして映像や音に繋がりますので、まずはそこから「体感」の旅を始めていただけたらうれしいです。文字からイマジネーションを膨らませることも素敵ですが、子どものころに見た飛び出す絵本のように、QRコードでバン!っと映像がモクモクと立ち上るのも、今の時代の楽しみ方だなと思います。

――体感した興奮をどのように文字にしているのでしょうか。とても的確なので、冷静さも必要だと感じました。

山口 人間ってすごい感動をいただいたら、誰かに伝えたくて、喋りたくてしょうがないですよね。少しでも幸せの連鎖につながる手渡しは、感動をいただいた者の使命だなと思っています。油断すると人間はすぐに忘れてしまいがちな生き物なので、現地で出会った生の感動はできるだけ忘れないうちにメモに残しておき、旅から帰ったあと、何週間か数か月後にメモをもとにその感覚を思い出して、文字に起こします。

もっと調べてみたいと思ったら、さらにいろんな本を読んだり。知らない文化に出会うと、けっこう本を読みます。読みまくると新しいドキッとするような感動にまた出会える。そうしてたくさんの伝えたいものを貯めていきます。とはいえ、ちょっと怠け癖があるから、仕事という使命をいただくと“よし頑張ろう、書こう”という気になるんです(笑)。

この『LISTEN.』に関しては、活動を応援してくださっていたダイワハウス工業さんの季刊誌『okaeri』で、定期的に旅について書かせていただいていたので、10年を機にまとめました。コロナ禍を体験して、立ち止まり、籠るチャンスをいただいたので、振り返ったり、まとめたり、今までおろそかにしていた整理をし直しました。

また、ウェブマガジン『生きのびるブックス』に月一くらいで旅について、いろんな国についてテーマごとに思い出し、復習して語っていたので、その言葉の記録と合体させて、今回の分厚い本になったという経緯です。

――とても素敵な本ですね。

山口 写真を撮っておくことも大事だなと改めて思いました。つい、『心のカメラに』と言って、撮らないでいいかと思うことも多いんですが、やはり撮っておくと記憶が蘇り、人に伝えるときにも活かせますね。

――ほとんどが風景の写真で、山口さんの写真が少ないのが少々残念に思いましたが……。

山口 本物と言われる人に出会いたいと思って旅を続けてきたので、本物の存在感の邪魔をしたくありませんでした。私自身、未熟な人間ですから。テレビは気軽な番組もあっていいし、そうじゃないものもあっていい。だから、私がそうじゃないものの枝葉を広げたいと思いました。

わかりやすい、万人に受ける、失敗しない……など、みんながそういう理由だけで無難な1~2種類の路線だけのエンターテイメントになってしまったらつまらない。いろんな種類があっていいし、『LISTEN.』は多くを語らなくていい。感じていただいて、そこから先は見ていただく方に託します。

説明過剰になりすぎないことを目指しているので、私が説明する必要もない。そういう発信の心を込めて、私はあえて出ないという選択をした10年間です。これからまだ、『LISTEN.』プロジェクトは続き、これからは書籍の『LISTEN.』を皮切りに、10年間貯めた宝を皆さんにお届けする期間に入っていきます。だから、このような取材の機会をいただき、自分の想いを伝えています。

集めた資料をお見せし、私が語る。今までは皆さんに体感してもらうために黙っていました。これからもそれは続くのですが、違う枝葉として、『もう、うるさいから語らなくていい』と言われるぐらい、私が語ります。そういう時期に突入したと思ってください!(笑)