後回しにしがちな苦手な家事は夫がフォローしてくれる

――そんなに物があるようには思えません。お料理上手で、家のこともきちっとされているイメージがあります。時間の割り振りはどのように? 山口さんの1日をお教えください。

山口 物は果てしなく増えてしまうので、大切なものを自分に問いかける練習だと思って、どんどんシンプル化するように心がけて、本当に好きなものだけ残すようにしています。

家のことは……私は好きなことしかしたくない人間なので、嫌いなことは後回しにしますし、機械を使うことは大嫌いです。掃除機とか、硬い機械に触れるのは、うるさいし、やっていて楽しくないです(笑)。でも、引き出しの中の片付けとか細かいところをきれいにするのは好きです。

ついつい得意分野だけやっていると、夫が見かねて掃除機をかけてくれるようになりました。料理を作ることは好きで、作ることにかなり集中するので、作り終わった時点でクタクタ。お酒を飲んだらどうでも良くなっちゃうので、食べたあとの食器の片付けはやるなら翌日。でも、これも見かねた夫が洗ってくれます。

見かねるまで溜まっていると夫が動いてくれるので、本当に感謝しています。だから、家の中では私は好きなことしかしてないです。ありがたいですし、恵まれていますよね。

――好きなことを優先させるっていいですね。

山口 1日24時間しかないんだもの。優先順位が高いものからにすると、そうなってしまいます。だから食べる時も美味しいものから食べ始める派です。いつ人生が終わってもいいという覚悟で生きているので(笑)。

――その行動力が今回のプロジェクトの原動力なんですね。

山口 限られていると思うから動き出せたりするものです。命には100%期限がありますから。また再生したり、繰り返し輪廻転生するかも知れませんが、死を意識することで、より濃く命を今に集中できます。

かぐや姫の話ではないですが、必ずいつか天に帰らなければいけない指令が来るわけですから、今回の地球に生きる生命体としての地球滞在時間は確実に限りがきます。その時までに、まだまだ知らないこの地球の素敵さに出会っておきたい。地球出発時間まで、いただいた肉体を利用して、知りたいものを知り、もっと出会いたいです。

――旅を通じて、山口さん自身が変化したことはありますか。

山口 毎回、数限りなくひとつひとつの出会いに衝撃や感動をいただいています。それによって、こう生きよう、帰ったらこうしよう、サボっていたあれをやろうなど、細かいいろんな転機のスイッチはあります。でも、年齢的な変化で言えば、今60歳を目前にして、青春時代以来の反抗期のよう気持ちをを感じています。

取り巻く周りの社会、環境への疑問、クエスチョンマークがむくむくと沸き起こるような感覚。青春時代って、大人社会の不条理に対して、なぜ? と思い悩む時期じゃないですか。これまで当たり前だと思ってきたやり方に対して、違うやり方もあるんじゃないかと、第二の自我が芽生るような感覚です。

人生の次なる大転換期。自分の生きてきた大切な時間の積み重ねが自分の中で大きなエネルギー源になって、闘うパワーになっている。若い頃よりも気力が充実し、知力も今までよりは最高レベルに上がっていて、今なら世の中のためにもうちょっと有効にお役に立てるかもしれないという、ほのかな自信のようなものも芽生えつつ、新たなスタートラインに立った気がしています。

今までは若さと勢いでがむしゃらに闘ってきたけど、ここからは手法が変わってくるんだな、と。これからはいただいたものに感謝し、また違った生かし方で次に繋げていく時代に入ったのだという意識があります。歳を重ねていくことは本当に面白い。時間をかけなきゃできないことがあるというのをこの10年、20年で教えていただきました。

この『LISTEN.』のプロジェクトも1~2年で結果を出してください、と言われていたらできなかったことです。10年かけたことによって分厚い本としてまとめることができたし、10年分の記録映像は誰にも真似できない宝物です。時間をかけることの大切さを改めて教えていただきました。

これからは地球での滞在期間の期限はあるので(笑)、気持ちの上ではちょっと集中して頑張れと拍車をかけつつ、時間をかけるべきものにはちゃんとかけて、濃く力を注いでいこうかなと思っています。

――最後に、世の中的には山口さんは「女優さん」ですが、さまざまな活動をしている今、ご自身では何と言われるのがしっくりきますか。

山口 “地球内生命体”です(笑)。地球外生命体にもそのうち遭遇したいと願ってますが(笑)、私たちは地球の酸素を吸って、重力に繋ぎ止めていただいているので“地球内生命体”。たしか岡本太郎さんが“本職は人間だ”と仰ってましたよね。

プロフェッショナルとしての専門職はいろいろあるとは思いますが、ザ・職人さん、技を極めている方に対する憧れは強烈に強いです。極めるものが曖昧で、自分に自信を持てない私だからこそ、素晴らしい人たちに憧れて追いかける力は誰にも負けない自信があります。私なりの個性で更なる面白い美味で彩って、みなさんに伝えていけるよう模索しながら進んでいきたいです。


プロフィール
山口 智子(やまぐち・ともこ)
1964年10月20日生まれ。86年にファッション誌『ViVi』のモデルを経て、88年NHK連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』で俳優デビューを果たす。以後、ドラマ『ダブル・キッチン』『スウィート・ホーム』『29歳のクリスマス』『ロングバケーション』など大ヒットドラマの主演を務めたほか、映画『居酒屋ゆうれい』『スワロウテイル』など話題作に出演。公開待機作に『春に散る』(8月25日公開)がある。2010年より地球の音楽映像ライブラリーLISTEN.の活動を始め、22年8月に10年の歩みを書籍化した『LISTEN.』を上梓した。5月3日(水・祝)にホテルニューオータニ(東京)でトークイベント『LISTEN.山口智子と世界を旅する』を開催する。