みなさんに直接お会いして、一緒に語り合う場を増やしたい!
――5月3日(水・祝)には、この『LISTEN.』をからめた参加型のトークイベントがあるそうですね。
山口 新しい発信方法として、自分の体で出向き、皆さんとその場でお会いしてお話しします。ドラマは撮影してしまうと、お客さんに作品をお届けした後の実感を感じにくく寂しいので、実際にライブの場に立ちたいとずっと願っていました。
イベントでは『LISTEN.』の映像と共に世界を旅する気分に浸っていただき、あらゆることを一緒に語り合う時間にしたいと思っています。来てくださる方からどんなことを聞きたいか、話したいか、アンケートを募集しています。
参加型イベントですので、実際に登場していただいて語っていただき、質問していただくイベントにしたいと思っています。また、その中から次の発信のアイデアもいただきたいと思っています。
――『LISTEN.』を今後、どのようにさせていきたいと考えていらっしゃいますか。10年後、20年後の目標は? 理想の完成形はあるのでしょうか。
山口 『LISTEN.』という未来へのタイムカプセルの眼差しは、遥か100年後、1000年後という長い目標に置いています。と同時に大事なのは、今この一瞬に手を抜いたら素晴らしい明日、明後日、10年後には繋がらないということ。
旅で出会った皆さん全てに投げかけた『千年後の未来に託すタイムカプセルに、あなたは何を入れますか?』というクエスチョンの答えに面白かったものがいくつもあり、その中で『入れるに値するものは自分ではまだ創造できていないと思う。僕たちが毎日、こうして生きていること自体が、“タイムカプセル”でもある。まさに今のこの瞬間、僕たちがすること全てがタイムカプセルに入ってしまう(中略)。今、自分にやれることをやっていくだけだよ』という答えをいただき、なるほどと思いました。
今できること、この一瞬に濃く集中したいと思っています。ただ、コロナ前後で世界の状況が変化したので、この流れの中で、これからやっていくことを自分で整理して、シンプルにしたいとも思います。コロナ禍はいろんなものを削ぎ落とせる時間でもありました。
今まで『LISTEN.』はBSで年何回かオンエアしてきましたが、これからの発信の仕方として、その形態は続々と変化しつつあります。世の中は今YouTubeなどでの映像の発信が主流ですが、同時に意外とアナログに回顧しているような風潮も感じます。
例えば、今、ラジオやレコードが流行り、あえて時間や手間をかける面白さに若い人が着目したり、サウナやキャンプブームといった自然が欲しくてたまらない若者のエネルギーも感じます。森やアウトドア、自然環境のもとで外に出ていく皆さんへの発信の仕方もありですし、野外エンターテインメントに関してリサーチを始めているところです。
――スタッフは少人数ですね。iPhoneの進化やオンラインの普及、ドローンもあり、今だったらできることも以前は大変だったと思います。一方で、CDやDVDの衰退など、以前だったからできたこともあると思います。この10年の変化はどう感じていますか。
山口 このプロジェクトを始めた頃はYouTubeもそれほど盛んではなく、情報はその土地に行くことが有効でした。思い返せば、手探りで未知のゼロの段階から知らない土地で調べ始めることは怖いけど、とてもワクワクする冒険だったと思います。あの手間や勇気を振り絞る感覚は勉強になりました。
現地に立って情報を聞くこと。今は検索できるけど、当時は現地でCDを大量に買い、仲間と担当して聞きまくり、これぞというアーティストを探して、自分たちが本当に好きと思える人にターゲットを絞って進んでいくというやり方も本当に面白かった。でも今回整理をしてみて、『CDなど形あるものを残しておくのはとてもいい』と思いました。
これが全部、小さなハードディスクに入ってしまうような記録の仕方だと、気軽に出し入れできる反面、そこに対する思い入れが失われてしまうような気もしています。CDには持った感覚やブックレットへの書き込み、その手触り、匂いから立ち上る記憶など、全てが総合して詰まっているんです。物体というものの面白さ、記録方法は決して古いものではないなと最近思い知っています。
よく、今は風の時代に突入したと言われていますけど、情報などが行き交いやすいメリットもあると同時に実態がなく、体や細胞、物体を使ったものへの憧れ、懐かしさ、回帰が潜んでいるのではないかと強く感じます。だからこそ、人と会うことや、自然の中で空気を感じたり、マイクや機械を通さない音自体の波長を体で受け止めることが大事になってくるのではないでしょうか。