軍関係者とCIAの分析の“温度差”

中国軍は、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)の台湾訪問(2022年8月)直後に大がかりな軍事演習を行い、日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイルを5発撃ち込んだ。尖閣諸島周辺海域への領海侵犯は日常茶飯である。

さらに、中国軍は2023年1月8日から軍用機57機、艦艇4隻を投入して大々的な軍事演習を展開した。ドローンによる偵察はほぼ毎日行われている。

これまでに米国から発せられた中国の台湾侵攻シミュレーションのなかで、最も早い時期を予測したのはマイケル・ギルディ海軍大将で「2023年の可能性もある」とし、多くの軍事関係者の「2025年以後」という予測より早い時期をあげた。

CSIS(米戦略研究センター)のシミュレーションでは2026年を予測している。なぜなら中国人民解放軍の創立100周年を迎え、習近平が3期目の任期を満了するため、その前年までに派手な「成果」を見せつける必要があるからとする。

「2027年説」に加わったのは、フィリップ・デービッドソン米インド太平洋司令官である。すでに2021年3月の時点で「侵攻の脅威は2027年までに顕在化する」と予測していた。

▲ナンシー・ペロシと蔡英文(2022年) 写真:總統府 / Wikimedia Commons

一方、CIAのウィリアム・ジョセフ・バーンズ長官は、2021年2月2日にジョージタウン大学の行事に参加して「CIAの評価は習近平主席の台湾に対する野心を過小評価していない。2027年までに台湾侵攻を成功させるための準備をなすよう解放軍に指示したことをCIAは掴んでいる」とすっかりトーンダウンした予測を述べた。

バーンズCIA長官は秘密裏にクレムリンを訪問し、またイスタンブールでもロシアの情報機関トップと会合をもっていることが確認されている。

CIAのもっぱらの情報収集はウクライナ戦争の分析で「向こう半年が重要だろう」と述べ、「中露関係は完全に無限の関係ではなく、中国はロシアへの武器供与を抑制している」と分析した。事態はあべこべで中国製ドローン100機が、すでにモスクワへ供与されたとドイツ『シュピーゲル』誌が報じている(2023年2月24日)。

この軍人たちの危機認識の温度差、予測のずれは何から生じているのか?

戦場の現場感覚から「台湾ではなく、米中間の戦争が近い」と感知する軍隊のトップと、いまや「情報サロン」と化したCIAなどの机上の空論組との誤差なのか?

米国情報機関ならびに軍高官の一連の発言から推測できることは、軍の予算獲得にあり、ウクライナへの大量の武器供与で在庫を減らした米軍の装備充填に置かれている。

▲ウクライナに供与されたとするアベンジャーシステム 写真:United States Marine Corps / Wikimedia Commons