子どもがいても歌手になる夢を諦めきれなかった
会社員として働いていた木山だが、仕事を円滑に進めるための飲み会に顔を出しては、カラオケ要員として歌を披露していたという。手術後はカラオケを断っていたが、約1年後、強引に連れだされ、歌うことに。そこで、自分の歌唱力が著しく低下していることに気づく。
「それまで現実を見ていなかったから、その日はすごく落ち込みました。僕、手術のときもそうだったんですけど、すっごい悔しがりなんですよ。次の日から自分でプログラムを組んで歌の練習を始めました。毎日しつこく練習したら、半年かけて、もとの高さまで出るようになりましたね」
そんなとき、彼の運命を変えることとなる番組『歌スタ!!』(日本テレビ系)を見つけた。カラオケボックスからエントリーし、優秀者はスタジオで審査へ。合格すれば、曲を書きたいと思ったクリエイターと共にレコード会社へ最終プレゼン。そこをパスすれば、晴れてデビューできるという一般参加のオーディション番組だ。
「もう38歳になっていました。子どもが4人もいて、がんも治ったのに、歌手になろうとするなんて……普通の人からすると“おかしいんじゃないか”と思われるかもしれませんが、僕としてはまたがんになっちゃうかもしれないし、いまチャレンジしないと悔やむと思ったんです。前向きな気持ちというよりも、“やらないとダメだ”という脅迫観念で応募しました」
結果的に、このオーディションで音楽プロデューサーの多胡邦夫と出会い、彼の代表曲となる『home』が誕生。番組でも紆余曲折あって、デビューすることが決定した。木山は『home』について、こんな印象を述べている。
「いろんな歌がありますけど、家族の歌ってあまりないですよね。今までいろんな人の歌を歌ってきたけど、自分じゃない人の気持ちになって歌うことが多かった。『home』は、優しいメロディーで、日記のような歌詞で……等身大で無理せず、カッコつけずに、自然な感情で歌える歌でした。多胡さんが、いま自分が思ってる本当の気持ちを曲に閉じ込めてくれたんだと思いましたね」
この曲を引っさげて夢だった「歌手活動」をスタートさせた木山。しかし、それから10年以上も会社員としても働いていた。「歌手一本で生きていく」という選択したのは、2019年12月のことだ。