エッセイ漫画は自分と似ているところを探す感じ

――あとがきで、山本さんの漫画のテーマは「大人になるまでの葛藤 」とありました。山本さんにとって“大人”とはどういうものでしょうか。

山本 私はもう37歳なんですけど、保険の支払いとか税金の支払いがすごく大変で……用紙がたくさん届くじゃないですか。たとえばパスポートを作るときも、いろんな書類をあらゆるところに持っていかなきゃいけないとか、返信用封筒に切手を貼って出すとか、すごくいろんな手続きを踏まないといけない。両親も、婚姻届を書いたり、私が生まれて出生届を出したりしてきているはずだし……いろんな手続きをスムーズにできるのが大人だと思いますね(笑)。

両親が「保険の支払いめんどくさい」なんて言っているのを聞いたことがないんです、そう思ってはいるのかもしれないけど。スムーズにやっている人たちも、じつはめんどくさいと思いながらやっているのかな? それを考えるだけでも、大人ってすごいなと思います。

――『てつおとよしえ』には切なさを感じる話もありました。親の年齢を考えるといろいろな思いがよぎりますね。

山本 本当にそうですよね。最近、父がアキレス腱をケガして。母と一緒に尾瀬にハイキングに行ったときにケガしたらしく、半年以上経ってやっとギプスが取れるみたいです。久しぶりに父に会ったら、足が悪くなっていたことで一気に年齢を感じて……もうあと何回会えるのかなって、急にきちゃいました。なんか切なくなりますね、両親がどんどん歳をとっていくのは。

――すごく切ないんですけど、親の老いを感じることに“私と一緒なんだ”と思いました。

山本 たとえば毒親とか、ヤングケアラーとか、そういう社会問題を扱ったエッセイも多くありますよね。なかなか表では言えない、相談できないことを描いた作品を見て、“自分だけじゃないんだ”って思いたい面もあるんだと思います。

――エッセイ漫画はその要素が強いように思います。

山本 自分と似ているところを探す感じですよね。それで言うと『てつおとよしえ』も、てつおはちょっとあんまりいない父親像かもしれませんが、よしえはよくいる母親像だと思います。“うちの親と似ているな”って共感してくれたらうれしいですね。

『あさりちゃん』の室山まゆみ先生が目標

――漫画を初めて描いたのは何歳の頃ですか。

山本 たぶん、小学生の頃です。すっごいつまんなかったと思うんですけど、セーラームーンをマネして物語を描いていました。チラシの裏とかに描いて、友達に読ませていましたね。それが最初かな。小学4年生のときに漫画クラブに所属していて、すごく楽しくて、もうこんな厚さ(指で示す)で描いていたんですよね。

――600ページぐらいの厚さですね(笑)。

山本 クラブ活動の時間だけで描いていました。あのときはたぶん、人生で一番執筆していたかも。あの熱量があったら、今、週刊連載できるくらいです(笑)。

――目標にしている、または尊敬している漫画家さんはいますか。

山本 『あさりちゃん』(小学館)の作者、室山まゆみ先生です。9歳上の姉が読んでいたのがキッカケで読み始めて、もうすごく大好きで、ボロボロになるまでずっと読んでいました。この前、新刊が出たんですけど、いまだに描いているのが本当にすごい。漫画家としての目標でもありますね。

――山本さんにとって『あさりちゃん』の魅力はどんなところですか?

山本 もちろんストーリーも面白いのですが、やっぱりキャラクターですかね。あさりちゃんって、動きがすごく魅力的なんです。他の漫画にあまりない派手さがあって、自分も影響を受けていると思います。

――親しくしている漫画家さんはいますか?

山本 エッセイ漫画を描く方たちと飲むことが多いですね。飲みに行くと「こういうことは絶対しちゃダメだよね」とか、炎上について話します(笑)。エッセイ漫画って、普通のストーリー漫画より炎上しやすい傾向にあると思うんです。

▲エッセイ漫画は炎上しやすい!?

――実際にあったことを描くからでしょうか。

山本 そうですね。ストーリー漫画も炎上することがあると思いますが、あくまでも創作です。エッセイ漫画は、実話であっても「これを描いたらこうなるな」と予測しながら描かなきゃいけないから、難しいところがあると思います。そういう情報をよく語り合っていますね。今日の夜もエッセイ漫画を描く作家さんたちと飲むんです(笑)。

――エッセイは自分の体験から出てくるものだから、常に何か面白いことに気がつかないといけない。それってプレッシャーになっていたりもするのでしょうか。

山本 そうですね。すごく面白いことがあっても、“描かないほうがいいかな”と思うこともあります。今、Webで漫画を公開するのが主流になってきているんですが、これが難しくて。無料公開すると、たくさんの人に見てもらえるうれしさがある一方で、心無いコメントがつくこともあるじゃないですか。変に炎上したりとか、違う意図で読まれたりとか、そういう危険もあると思います。