激しさのなかにあるポップなメロディーが魅力

――少し話は変わるのですが、音楽を文章で表現することの不毛さってあるような気がするんです。日本語を英語に直したものを、また日本語に直しているような気がしていて。

TK 面白い意見ですね。

――音楽ですべて伝わっているのに、それをまた文字にする意味って……と。TKさんが話された「曲には全部を詰め込めない」というのは、そぎ落とされて無駄なものが一切ない状態ということですよね。音楽ですべて無駄なく伝えられているんだなと改めて思いました。

TK 音楽を言葉で表現することに不毛さを感じている人、僕はすごく好きです。LUNA SEAのJさんのラジオ番組でも同じようなことを言われました。僕にとっても憧れの人だったので、雑談をたくさんして番組が終わるじゃないですか。そのとき、パーソナリティの方に「あまり曲のことを聞けなくてスミマセン」って言われたんです。要は、プロモーションでラジオに来ているのに雑談で終わっちゃってスミマセン、という意味ですよね。

僕ら的には、そこで改めて「今回こういうコンセプトで作りました」とかって話す必要がないんですよ。普通に楽しい会話ができればいいんです。ミュージシャンみんながそういう気持ちではないと思いますが、個人的には曲のことは全然聞かれなくてもいい。聞かなくていいように音楽にしているのに、それを改めて「どういう意味なんですか」って聞くことに不毛さを感じている人っているんだなと思って、どこか矛盾してるようでうれしかったんです(笑)。

――この本で特に刺さったのが「創作における理想の道は孤独だ」という言葉です。そこに喜びとかカタルシスがあるか、お聞きしたいです。

TK 僕のソロも時雨の音楽も、誰にでもわかるものではないかもしれませんが、自分だけがわかればいいという感覚は全くありません。わかる人だけがわかればいいっていうのは、自分が作っているものから逃げているとか、自分で扉を閉ざしちゃっているような気がするし、面白みを感じない。伝わることが一番面白いなって思います。

特殊な歌い方はしているものの、僕が聴いてきた音楽ってJ-POPなんですよ。根源がそこなので、そぎ落としていけばシンプルなコードとメロディーしかない。じつは誰よりもポップなものを作っているという感覚です。全部は見せないけど、見せ方の角度を少しずつ変えながら、自分たちらしいバランスで鳴らしているっていうのが時雨の形ですね。

昔から、激しいバンドの音楽を聴いているのに「すごくポップだな」と思う瞬間がありました。例えばリンキン・パークとかも、あんなにラウドでギターも歪んでいるのに、メロディーがすごくきれいで。もちろん、スピッツやミスチルを聴いたときのポップさもありますが、激しさのなかにみえるポップさとか、ふとした瞬間に惹き込まれるようなきれいなメロディーにものすごく魅力を感じます。自分が目指している、聴いているときに一番ほしい感覚ですね。

 

時雨にインディペンデントを感じる理由

――TKさんが指針としているものがあれば、お伺いしたいのですが。

TK 音楽人生でいうと……どういったものを自分が生み出してきたかって、自分が人生を終える瞬間に振り返られるものだと思うんですよね。振り返るときにはもう命がないとしても、永遠に残るじゃないですか。だから、音楽家って特殊な職業だなと思っています。

作品においては、自分が残したくないものとか、純度が満たされてないものとかを1つも残しておきたくないなっていうのが基本にあります。そのベクトルが今回は本に向いたということですね。

――この本でも「僕は天才ではない」と書かれていて、TKさんもこういうことを思ったり、悩んだりするんだ。同じ人間なんだって思えました。TKさんが単純にすごいと思う人がいらっしゃればお聞きしたいです。

TK ミュージシャンになると、一周回ってみんなすごいと思ってしまいます。自分が突き詰めてやっているからこそ、周りの人がどこでどういうふうに突き詰めているかっていうのが見えてくるので。苦しんでいたり伸び悩んでいたりして、そこを乗り越えてきている人同士って、全然会ったことがなくても、会った瞬間に話が合うような感覚というか。曲を作っている人はもちろん、歌だけを突き詰めている人もそうですし、ジャンルが違っていたとしても、すべてに対してリスペクトがあります。

――時雨の3人は運命共同体というか、メンバーに対しての敬意のようなものがありますよね。

TK そうですね。それでいうと、すごいと思えるのは事務所の社長である百瀬さんかもしれないです。もともとL'Arc〜en〜CielやSPARTA LOCALSのマネージャーをやっていて。2003年ですかね、百瀬さんがいきなり僕らのライブに来たんです。2003年の僕らなんて、まだ5~6人も集められないくらい、本当に何者でもなかったのに。

百瀬さんの教えで「誰もいなくなっても動けるように、自分自身で考えて行動しなさい」っていうのは残っていますね。それをまだ誰も周りにいない状態で言われました(笑)。いろんなバンドを見てきての教えなんだと思います。誰がいようといまいと、常に自分が考えて行動しなさいって。

プレス工場まで行って、どうやってジャケットができるのかっていうところまで教えてくれました。この教えは、時雨の独特のインディペンデント性に通じていると思います。メジャーには籍を置いているけど、ちょっと枠から外れているみたいな。

――最後に未来のお話をお聞かせいただければと思います。やってみたいこと、何かありますか?

TK 未来かぁ……音楽でいうと、劇伴とかはやってみたいですね。

――プライベートでやりたいことは何かありますか。

TK 僕、趣味が全然ないんですけど、人とご飯に行くのとかは好きですね。でも、いつまでに作品を作るとかっていうスケジュールもあるので、なかなか「この日、空いてるよ」っていうのが難しいんですよ。だから、日程を出せずにそのままになっちゃってます。マネージャーにも「もっと人と会ってこい」って言われるんですよ。別にそれで仕事を取ってくるって話ではないんですけど、ちょっとは外交しなさいよって(笑)。

――最後の最後にTKさんっぽいお話が聞けた気がします。

TK なので、プライベートでは人とご飯に行くことが目標です(笑)。


プロフィール
 
TK
1982年生まれ、東京都出身。ロックバンド、凛として時雨のボーカル&ギター。同バンドにおける全作品の作詞作曲を担当し、鋭く独創的な視点で音楽を表現。加えて、色彩豊かで温度感のある歌詞と刹那的なハイトーンボイスでファンを魅了する。TK from 凛として時雨のソロ名義でも活動するほか、多くの著名アーティストのプロデュースも手掛ける。海外にも多くのファンを持ち、2021年にはアニメ『東京喰種トーキョーグール』の主題歌「unravel」が“Spotifyにてもっとも海外で再生された日本アーティスト楽曲”となる。Instagram:@tk_snsfakeshow