お母さんについてしまった嘘

実家で過ごしているあいだは、『実家に帰って来たときのいつもの俺』をテーマに心掛けました。

「東京で今こんな舞台の稽古してて〜」とか。

「今日の夕方からの仕事は『ハンサム落語』の撮影やねんけど、この太った感じをどう痩せて見えるように撮ってもらおうか〜」とか。

「アーティストの花*花さんの生演奏で『粉雪』歌う不思議なイベント、この前やってきた〜」とか。

本当に普通の話を、きなことお母さんにしました。きなこの命があぶないなんて、微塵も感じさせない雰囲気で。

そんな会話の最中、

「そういえば雄也、なんか……エッセイ? を書くって言うてたけど、なに書くの?」

あ。ダンボール猫のおはぎのことや。

そう言えば、お母さんにエッセイの連載が決まったとは伝えてたけど、何について書くかは言ってなかったと思い出しました。

でも、このタイミングで他の猫の名前出すのは“なんか違う”と思ったので、

「なんか……工作? ダンボールの工作? についての連載? みたいやで」

とクエスチョンマークの多すぎる返事をしてしまいました。

聞かされたお母さんも怪訝な顔をしてましたが、この文章を読んで気づくでしょう、ごめんなさい。

そして、とてもダンボールキャットブリーダーとは思えない発言に反省です。

ごめんな……おはぎ。

僕の目の前に運命の猫が現れる日まで・・・

そろそろ家を出る時間になりました。

「きなこ。ありがとう」

僕がきなこに言った言葉です。

首から下が動かないきなこは、横になったまま綺麗な目でじっとこっちを見てくれました。

これがきなこと話す最後の時間。

いろいろ言いたかったですが、これ以上、言葉を出すと泣いてしまいそうで、頑張って生きてるきなこの前で泣いてしまうのは絶対にイヤで、でも何か言いたくて……僕はきなこの可愛い肉球を握って「また!……またね!」と声を出すのが精一杯で、鼻の下まであふれてきた涙が流れ出る前に家を出ました。

東京駅に着いたのは夕方5時。

新幹線を降り、きなこの様子を確認するためにお母さんに電話をしたら「ちょうど今さっき、旅立ったよ」と。

なんて返事をしたか覚えてないけど、電話を切って、仕事の入り時間まで何分あるのかを確認しました。

覚悟していたから意外と冷静になれたのかな? と思っていましたが、鈍器で心臓を殴られたような感覚があったので、これは鈍くジワジワ心を侵食してくる悲しみなんだと理解しました。

まだ数分余裕があったので、近くのホームのベンチに座りました。

スマホ握って呆然としてる僕の頭の中に、きなこが出てくるのと同時に、マリアの姿も出てきました。

マリアもきなこも大切な家族。

その大切な家族が、与えられた命を全うしてすごいな。えらいなって。

自分は恥ずかしい話、見た目はオッサンだけど頭脳は中学生で止まってる最悪の名探偵コナンみたいな感じで、おまけに寂しがり屋だから一人暮らしの家に猫を飼おうかと、何度もペットショップに通ったけど覚悟がなくて、でも猫が好きだからダンボールで作って……。

マリアが亡くなったときも思ったこと。

きなこが亡くなったときも同じことを思いました。

もう二度と猫は飼いたくない。

でも、こんなにも猫が好きなら、きっと猫を飼いたいって気持ちが出てくる薄情な自分も知ってます。

だから僕は、なりたい理想の大人になって、僕の目の前に運命の猫が現れるその日まで、おはぎと一緒に過ごそうと強く決心しました。

いや、おはぎもダンボールなだけで生きてる猫なんですけどね!

撮影現場に到着しました。

いろいろと浸るのは家に帰って、おはぎのガムテープを交換してから。これからハンサム落語の撮影ですからね。

『ターミネーター2』のエドワード・ファーロング(ジョン・コナー)みたいにならないといけません。

一度、呼吸を整えて、現場の扉を開けました。

顔馴染みのハンサム落語のスタッフさんたちが温かく迎えてくれたので、僕も気合い入れて返事しました。

「おはようございます! スミマセン、ぶっちぎりで太ってて! どうにか痩せて見えるようにメイクとポージングの指示、お願いします!」

出来上がった写真を見ると、顔半分がほとんど隠れてました。

▲「できるだけ痩せて見えるように撮ってください」と伝えた結果…

その写真を見たマネージャーがこう言いました。

「宮下さんって、おはぎに似てますよね」

 

……確かに似てる。

飼い主に似るって言いますからね。だから大喰らいの俺に似て、おはぎもダンボールよく食べるのか。

今おはぎは、実家から送られてきたきなこの餌を美味しそうに食べてますが、今後、与える餌の量を考えないといけませんね。

次回の『宮下雄也の「吾輩はダンボール猫である」』は、9月8日(金)更新予定です。お楽しみに!!


<お知らせ>
トークイベント「今月の宮下雄也 vol.78」
テーマ:怪談ナイト
8月19日(土) 開場 24:00 / 開演 25:00
新宿ロフトプラスワン
出演:宮下雄也、反橋宗一郎、村上ロック(怪談師)、ぁみ(怪談家)、今立進(エレキコミック)ほか
https://peatix.com/event/3660710

舞台「ハンサム落語2023」
10月4日(水)~10月9日(月・祝)東京・CBGKシブゲキ‼
10月13日(金)~15日(日)大阪・シアター朝日
※宮下雄也の出演は10月9日(夜)、14日(夜)、15日(昼夜)のみ
https://www.lol-w.com/hr2023/
プロフィール
 
宮下 雄也(みやした・ゆうや)
1985年9月3日 大阪府出身。俳優としてドラマ・舞台を中心に活動中。今年1月より放送されたドラマ『ブラッシュアップライフ』でレミオロメンの「粉雪」を熱唱する加藤役として出演し話題となった。また、アニメ『遊戯王5D,s』では主人公の不動遊星役を務めるなど声優としても活躍。ここ最近の出演作として舞台「漫才ギャング-リローテッド-」「転生したらスライムだった件」(2023年8月公演)、ドラマ「ブラッシュアップライフ」(NTV)「だが、情熱はある」(NTV)などがある。X(旧Twitter):@HonjoJrHigh、suzuri:雄屋さん