黄金期到来? 2年連続で総合力が高かった仙台育英

令和に入ってからの春夏どちらかは甲子園でベスト8を記録し、夏連覇を果たしたのが須江氏が率いる仙台育英だ。

今は黄金期と言ってもいい強さを見せている。

『戦略で読む高校野球』でも仙台育英の投手運用などを細かく取り上げたが、監督の須江氏は選手の能力を最大化するために、練習時からデータを細かく取っている。

その結果、大阪桐蔭や東海大相模といった東西の甲子園優勝校のように、140km/h以上を投げる投手を複数人揃えるまで育成を成功させた。

ただ、この2校と異なるのは、継投型の投手運用で勝ち上がっていることだ。

仙台育英の場合は、球数制限はもちろんのこと、大会におけるプランニングのうまさも際立っている。

相手によって先発から抑えまできめ細かく投げる予定を決めており、この投手運用を参考にしている高校は数多いだろう。

昨年と比較すると、全体的に60点から70点の投手陣を揃えるのではなく、湯田・高橋の軸となる2枚がこの世代でもトップクラスの能力を持っていた。

また、選手のマネジメントを見ても、予選の東北戦で満塁ホームランを記録した斎藤敏哉を、全国レベルでは粗削りのため、厳しいと感じたらすぐに外す思いきりの良さがあった。

その他を見ても、大差がついた試合では、試合終盤に野手陣を休める采配などもあり、野手のマネジメント能力の高さも見受けられた。

さらに、主力選手を大会が追うごとに調子を上げていく部分も、甲子園で勝てる常勝高ならではの「大会の入り方」がわかっているように感じた。

仙台育英といえば、今では投手王国のイメージが強いが、野手陣もかなりレベルが高い。

昨年のチームは、チーム防御率2.00は素晴らしい成績だったが、チーム打率も.397を記録していた。

今年も、高いチーム打率を記録しており、U-18には山田、尾形、橋本が選ばれた。いずれも選手としての能力は高いことはもちろんのこと、高校生とは思えないほど状況を見ながらプレーをする視野の広さを持っている。

これは、大阪桐蔭の監督である西谷氏もそうだが、仙台育英の須江氏も試合序盤は自分で考えさせながら打席に入らせることが多いからだろう。

須江氏が選手を信頼しているからこそ、勝負どころ以外は好きなように考えさせながら自主性を尊重して打たせている。

勝負どころでは、履正社戦のようなバント攻撃や、神村学園戦のような機動力を活かす攻撃が見られ、選手個人がその期待に応えられるレベルの高さがわかる大会だった。

ここ2年の選手育成から采配を見ても、高校野球で勝つための最適解を見つけている。

今年も盛り上がりを見せた夏の甲子園を総括

今大会は、タイブレークやクーリングタイムといった部分が、少なからず出場校の戦略に影響していただろう。

また、球数制限が設けられてから数年が経ったこともあり、細かい継投策やエースをリリーフに回す高校が増えたように思える。

大会前の優勝予想では、仙台育英が頭一つ抜けており、次点で広陵、履正社、慶應が食い込んでいくという見立てだった。

その予想通り、仙台育英と慶應が決勝で対戦。「仙台育英vs履正社」と「慶應vs広陵」の試合は、非常にレベルが高い接戦となった。

また、予想とは反して快進撃を見せた土浦日大は、上田西や九州国際大付属、専大松戸、八戸学院光星といった強豪校や優勝候補を破り、ベスト4に輝いた。

指揮を執る小菅勲氏は、かつて取手二や常総学院で甲子園を制した木内幸男の弟子にあたる。

そのため、持丸修一氏が率いる専大松戸との対戦は、木内イズムを継いだ弟子対決にもなった。

仙台育英や慶應といったチームのように、個の力ではなく、その試合ごとに選手の能力を最大化させ、試合巧者ぶりを発揮して勝ち上がった。

神村学園も、固い守備を中心とした堅実な野球で勝ち上がった。

守備の固さはもちろんのこと、松永優斗から黒木陽琉への継投のタイミングも抜群で、北海などの強豪校を破ってベスト4まで勝ち上がった。

土浦日大と神村学園は、U-18に選ばれた選手は0名。いかに組織化されたチームだったのかがわかる。プロ入りや代表入りといったタレント性がある選手がいれば勝てる、とはまた違うところの本質を突いたチームだったと見ている。

決勝に勝ち上がった2校に関しては、苦しい試合をものにしつつ、大会を大局的に見たうえでのプランニングの重要さも記載していた。

この結果、仙台育英は初戦から強豪校との対戦はあったものの、履正社戦以外は比較的に理想に近い試合運びだったと見ている。

慶應に関しても、広陵戦と沖縄尚学戦は苦しい展開だったが、それ以外の試合は有利に進めていた。

また、王者・仙台育英に真正面から立ち向かった慶應は、自慢の強力打線が仙台育英投手陣を打ち崩した。試合開始からすごい応援の後押しもあり、悲願の107年ぶりの優勝を成し遂げた。

ただ、今大会を見るとここ10年の高校野球で、春連覇や春夏連覇、三冠達成などを達成した大阪桐蔭が安定した強さを見せているように、今後は仙台育英も同等の安定した強さを見せていくだろう。

▲今年も熱戦が繰り広げられた甲子園球場 写真:ペイレスイメージズ 2 / PIXTA

プロフィール
ゴジキ(@godziki_55)
野球著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』『坂本勇人論』(いずれもインプレスICE新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)を出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディア取材多数。最新作は『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)。X(旧Twitter):@godziki_55