仙台育英投手陣を攻略した慶應打線の「リベンジ」

2023年夏の甲子園決勝は、仙台育英と慶應の対決になった。

この両チームは、センバツでも対戦しており、そのときは仙台育英が2対1で勝利している。

このような形の対戦は、2019年の履正社vs星稜以来となった。

このときはタイブレークまでもつれこむ接戦。今回もほとんど互角の戦いが予想された。

両校の先発マウンドには仙台育英は湯田、慶應は鈴木があがった。

仙台育英からすると、センバツで対戦していない鈴木だが、小宅がリリーフでマウンドに上がるまでに先制点をあげ、点差を広げられるかが鍵になった。

逆に慶應は、小宅が準決勝で完投しているため、先制点を含む援護を与えながら、沖縄尚学戦のように鈴木と松井でなるべくイニングを稼いで、安定感がある小宅に持っていく意図が感じられた。

1回表、慶應は丸田が湯田のボールが浮いたところを逃さず、この大舞台で先頭打者ホームランを放つ。

3番に上がった渡辺憩のサードへの打球は捕球できそうだったが、湯浅が後ろに逸らしてヒットになる。

さらに、延末が打席に入ると、3球目に捕手の尾形がボールを失い、進塁を許す。

悪い流れは続いてしまい、二死からの場面で、ショートフライを山田がボールを見失いヒットになる。

試合開始から甲子園全体が慶應への応援で埋め尽くされていた。

守りの場面でも初回からストライクやアウトを取るたびに、大きな声援が飛び交った。仙台育英としては、流れが掴めない1回の攻防となった。

さらに、慶應は2回にも丸田のタイムリーで追加点をあげる。

前年の王者とはいえ、仙台育英も雰囲気に飲み込まれ、普段のパフォーマンスが発揮できていないように見えた。

ただ、仙台育英も意地を見せ、2回にチャンスを作る。

斎藤陽と尾形の長短打でチャンスを作り、内野ゴロの間に1点を返す。さらに、ピンチを凌いだあとの3回の攻撃で死球とエラーでチャンスを作り、ワイルドピッチで1点差とする。

4回には尾形のツーベースで同点のチャンスを作るも、活かしきれずに無得点に終わる。すると、慶應は仙台育英の2番手・高橋を攻め立て、タイムリーとエラーで5点を追加して一気に突き放す。

仙台育英は4回に追いついていれば状況が変わっていたが、チャンスを潰したことにより、慶應に流れが一気にいってしまった。

仙台育英からすると、4回の攻撃の場面がこの試合の大きなポイントになったのは間違いない。

この大会で当たっていた2年生の湯浅や鈴木、キャプテンの山田は雰囲気に飲み込まれて、普段見られる思いきりの良さがなかったように見受けられた。

また、慶應はこの大会で当たりに当たっていた仙台育英の橋本をノーヒットに抑えるなど、厄介な打者を徹底的に抑えた。

継投策を振り返ると、慶應は鈴木が4回まで投げきり、5回からはこれまでチームを支えたエースの小宅がマウンドに上がり、仙台育英に流れを一切渡さないピッチングを見せ、悲願の夏の甲子園優勝を果たした。

慶應からすると、センバツでは仙台育英に対し、タイブレークで悔しい敗退となった。その悔しさが夏に向けての成長につながり、結果的には仙台育英投手陣を攻略して、107年ぶりの優勝という、このうえない夏になったのではないだろうか。