夏の頂点に立った「エンジョイベースボール」の慶應

今大会の慶應は、持ち前の打力を活かしたチームビルディングで広陵や沖縄尚学などを下して勝ち上がってきた。

「エンジョイベースボール」や髪型の件で良くも悪くも話題となり、メディアや甲子園の雰囲気を味方につけたと言っても過言ではない。

甲子園の雰囲気を味方につけた象徴的な試合といえば、沖縄尚学戦だろう。

慶應は2点ビハインドのままクーリングタイムを挟んだ6回に、清原和博氏を父に持つ清原勝児が代打で起用されるとスタンドから大歓声が沸いた。

結果的に清原は凡退はしたものの、一気に球場が慶應のホームになった。

沖縄尚学の東恩納蒼は、U-18代表にも選ばれており、高校生離れした投球術を持つ今大会屈指の投手で、沖縄大会から前の試合(創成館戦)にかけて、49回3分の1を投げて、奪われた点はわずかに1点という素晴らしいピッチングを見せていた。

慶應打線についても、5回までほぼ完璧に抑えていた。しかし、6回に大きく状況は変わる。

「ランナーが出て、聞いたことのないような大歓声になった。ライトとも会話ができないような感じで。あそこで少し、変わってしまったのかな」と捕手の大城和平がコメントしたように、この雰囲気に飲まれた。[参考記事:https://number.bunshun.jp/articles/-/858503?page=1

その結果、慶應はこの回に6点を奪い逆転勝利した。

このようにデータや数字では可視化できない部分も、甲子園で勝ち抜くには必要な要素である。

私も『戦略で読む高校野球』はもちろんのこと、この連載のインタビュー記事で、高校野球における応援の重要さは、下記のように答えている。

プロ野球は応援するチームが決まっている方が多いと思いますが、高校野球は関係者じゃないとそこまで贔屓のチームってないと思うんです。そういう方たちが、負けている、劣勢に立たされているチームを応援し始めると、雰囲気が変わることがあるんですよ。

やっぱり学生さんなので、プレーがメンタルに左右されると思うんです。特に聖地・甲子園では、その傾向が顕著に出ますね。だからこそ、国体とか明治神宮大会とか、夏の甲子園大会以外を見ると、また違った面白さもあります。それが高校野球の魅力かなって思います。

あとは、メディアがスターや旋風を作るのも高校野球の特徴ですよね。パッと名前が出てくるのは、早稲田実業の斎藤佑樹さん(元北海道日本ハムファイターズ)、がばい旋風の佐賀北高校、金足農業高校の吉田輝星投手(現北海道日本ハムファイターズ)などでしょうか。観客、マスコミ、視聴者……すべての人が高校野球を作り上げている感じがします。

ここにも記載のように、メディアの取り上げ方も斎藤佑樹を擁して2006年の夏の甲子園を制した早稲田実業のような雰囲気があったと言っていいだろう。

その勢いと予選では杉山、甲子園では高尾や東恩納、湯田、高橋といった好投手を攻略した打線は、出場校を見てもNo.1と言っても過言ではない実力があった。

U-18に選ばれた丸田湊斗や大会を通して高い対応力を見せた延末藍太を中心とした打線は、1イニングに複数得点を獲れるチームでもあった。

投手陣もエースの小宅以外の投手が大会序盤は不安定だったが、準々決勝と準決勝は安定した試合運びができたのも大きかった。

特に、広陵戦では松井が踏ん張り、沖縄尚学戦では鈴木と松井で8イニング投げ、小宅の負担を軽減できたのがかなり大きかっただろう。

決勝の仙台育英戦も勢いのまま、強力な投手陣を打ち崩し、夏の頂点に立った。

好投手を打ち崩せる高い打力とメディアや観客を味方につけた勢いで旋風を巻き起こした慶應は今後にも注目だ。