今年の夏の甲子園は8月23日に決勝を迎えた。

今年の決勝は、盤石な投手陣を中心に選手全体のレベルが高く夏2連覇を狙う仙台育英と、107年ぶりの夏制覇を狙うチーム打率以上の打力を誇る慶應だった。

この夏の甲子園に向けて発売され、Amazonや楽天などのネット書店、紀伊國屋やジュンク堂でも売上ランキングの上位に入った『戦略で読み解く高校野球』(集英社)の著者であるゴジキ氏が、今大会について語る。

ハイレベルな戦い「慶應vs広陵」「仙台育英vs履正社」

今大会では、組合せ抽選で順調に勝ち上がれば「注目カード」と言われていた試合が2試合あった。

それは、「慶應vs広陵」と「仙台育英vs履正社」だ。全4チーム、すべて勝ち上がり注目のカードは実現。

まずは「慶應vs広陵」の試合から語っていきたい。

慶應は横浜の杉山遙希を打ち崩して甲子園出場を決めた打力が持ち味だ。

対する広陵は、センバツではベスト4に進出。ドラフト候補のスラッガー・真鍋慧や予選の準決勝まで27イニングで無死四球無失点を記録した高尾響、左腕の倉重聡といった投手2枚も充実。

慶應は1回に初戦と同様に立ち上がりに不安があった好投手・高尾響から延末藍太のタイムリーで先制点を奪う。3回にも追加点をあげ試合を優位に進めるが、広陵も意地を見せる。

3回裏に真鍋の後ろを打つ4番・小林隼翔のタイムリーで1点を返し、初戦と同様、慶應に対し、じわじわとプレッシャーをかけていった。

さらに、先発の高尾は尻上がりに調子をあげていき、強力・慶應打線を抑え込む。

その投球に奮起した打線は、松下水音のタイムリーと内野ゴロの間に同点に追いつく。

慶應からすると、追いつかれた時点で背番号1をつける小宅雅己はマウンドから降りており、2番手の鈴木佳門だった。その後、3番手の松井喜一まで投げることになる。

広陵からすると、鈴木から追いついて松井に変わったときや9回までに勝負を決められなかったことが敗因だろう。

賛否が分かれたのが、9回の攻撃。

谷本颯太が出塁し、真鍋が打席に入る。次の打者の小林が当たっていたこともあり、真鍋に出されたサインは送りバントだった。

結果的にはバント失敗に終わる。この場面、仮にバントが成功していても、得点に結びつかなければ、否定的な意見は多かっただろう。

個人的な意見としては、これまでチームを支えてきた主軸の真鍋に打たせてもよかったと思っている。

最終的には、タイブレークに入り、慶應が10回に高尾から自慢の打力で3点を奪い勝利した。

次も注目度が高かった「仙台育英vs履正社」。

夏2連覇を狙う仙台育英と、大阪桐蔭を下した履正社ということもあり、対決の行方に注目が集まった。

仙台育英の先発は、須江監督が「今年の高校生で一番いい右投手は湯田になると思う」とコメントした湯田統真だ。

対する履正社は、増田壮が先発のマウンドにあがった。

強豪同士の試合は序盤から動いた。

2回に仙台育英が鈴木拓斗のツーランホームランで先制する。しかし、負けじと履正社は2本のタイムリーで同点に追いつく。

さらに、3回には仙台育英のキャプテンを務める山田脩也がまさかのエラー。履正社が勝ち越しに成功する。

仙台育英は、3回だけでエラーが3つ記録された。2回の履正社のタイムリーも難しい打球とはいえ斎藤陽が取りこぼすなど、らしくない守備のミスが序盤は目立った。

リードされた仙台育英は、4回にツーアウトから連打と四球でチャンスを作ると、この大会で当たっている橋本航河のタイムリーで追いつく。

序盤は得点を奪い合うシーソーゲームだったが、5回から7回までは互いに譲らない展開になった。

両校は持ち前の投手力を活かすために、仙台育英は6回から高橋煌稀にスイッチ。対する履正社は、大阪桐蔭を完封した福田幸之介が7回途中からマウンドに上がった。

中盤は両校の凌ぎ合いだったが、8回に試合が動く。

仙台育英は、湯浅桜翼が福田からツーベースで出塁すると、4番の斎藤陽が送りバントでランナーを3塁まで進める。そして、5番の尾形樹人がスクイズを決めて勝ち越した。

尾形は「(8回の)攻撃前に監督から『こういう試合はスクイズとかが流れを変える』といわれました」と決勝スクイズについてをコメントを残した。 [参考記事:https://www.sanspo.com/article/20230818-OTCUJWJJVBKLLF3KTFRMHTNLSQ/?outputType=amp

この場面では、得点圏にランナーが進んだら難しいことをしないシンプルな采配が均衡を破る形になった。

逆に履正社は、8回と9回にランナーを出すものの、チャンスをものできない。結果的に1点が遠い試合になった。

この試合の仙台育英は、2番手の高橋がマウンドにいるうちに勝ち越さないと履正社が有利な展開になっていただろう。

そのため、タイブレークには絶対にしたくない展開だったことから、終盤の勝負どころでバント2つで勝ち越したのは、監督である須江氏の勝利への嗅覚が勝った試合と言ってもいいだろう。