5,000万円のローンを組んで買ったリシャール・ミル

――本日お持ちいただいた腕時計のなかで、ひと際目立つこの赤色の腕時計は何に惹かれて購入したのでしょうか? 

ヒロユキ いやあ、難しいですね……。全体的に迫力がすごかったっていうのがまずありますね。真っ赤なケースが意外と高級感を感じたり、あと、スケルトンの文字盤の複雑なデザインがカッコいいなと。なんかすごい、というのが素直な感想でした(笑)。他の腕時計と違う感動、面白さがあるなと思いました。リシャール・ミルの「RM11-03」という時計で5,000万円弱ほどだったのですが、後悔はありませんがローンの支払い中です(笑)。

▲リシャール・ミルの「RM11-03」

――5,000万……すごい金額ですね。それだけ高い物を購入していると金銭感覚が麻痺してしまう気がするのですが、ご自身で変わったと思いますか?

ヒロユキ 金銭感覚は変わったかもしれないのですが、腕時計を買いすぎた結果、昔よりお金がないので逆に使わないという奇妙な現状です(笑)。今はすべてが腕時計基準になっている気がします。何か欲しいなと思う物があっても、「時計を買おうと思ったら、こんなところで使ってる場合じゃないよなぁ」って。

靴や鞄も好きなのでたまに買っていましたが、ローンを組んでからはあまり買わなくなりましたね。ぶっちゃけますが、月々の返済額が150万円を超えているんですよ。毎月150万円も返済しなきゃいけないって思うと、“30万円の鞄を買おうかな”と思っても、150万円にプラスで30万円か……と考えてしまって。

――ローンを組んでから金銭感覚が変わったということですね。

ヒロユキ そうですね。日割りで換算すると、1日5万円ですから。そう考えると、我ながらバカなんじゃないかと思いますけどね(苦笑)。しかも、自分でも怖いのですが、ローンを組んだのが最新作の『カノジョも彼女』の連載の終わりかけだったんです。

仕事がなくなる寸前にローンを組んで、仕事がないときに返済しなきゃいけないっていうのは、精神的に良くないですよね。何もしなくても1日5万円減っているから「働かなきゃ!」という労働意欲にはつながりますが、どえらいペースで貯金が減っていくのはあんまり気持ち良くはないですね。タイミング間違えたかな、というのは少し思っています(笑)。

――高級腕時計界隈ではいくつかルールがあるというお話ですが、そういうルールなどでヒロユキさんが驚いたことはなんですか?

ヒロユキ 店頭に並んでいない、売っていない腕時計があるというのは衝撃でした。ひとつの例として、店頭に並んでいない物を買うには、お店に通わなくてはいけないのですが、その意味がわからなかったですね。“通うってどういうこと?”と思いました。

そもそも、100万円を越える腕時計を買う人がたくさんいて、常に売り切れ状態っていうイメージが全然できてなかったんですよね。「ポケモンカードが大人気で品切れなんです」と言われたら、まぁわかるじゃないですか。でも「100万円の腕時計が人気すぎて店にないんです」っていうのが理解できなかったんです。そんな高いものを買う人が、そんなにたくさんいるの?って。

腕時計にハマっていろいろ勉強していくと、「購入実績が必要」という話も最初は驚きました。すべてがそうとは限りませんが、人気の時計を買うためには、他の時計を買って購入実績を作らないといけないことがあります。信頼を積み重ねていくようなものですかね……。そこでわかったのが「良い物は誰にでも売るわけではない」んだなと。そういう世界があるってことにカルチャーショックを受けましたね。

――すごい世界です。店頭に置いていない腕時計は、お店に通って店員さんと親しくなったら購入できるんでしょうか?

ヒロユキ ブランドや店舗によってはそういう場合もあると思います。でも、結局のところ僕にもよくわかりません(笑)。僕は最初に通ったお店で店員さんとある程度お話ができるようになるまでに半年かかりました。あの頃が一番しんどかった…(笑)。

店員さんに在庫を聞くんです。「〇〇(モデル名)ありますか?」って。で、店員さんが「在庫はございません」と毎回同じ質問と答えの繰り返しでした。“本当にこれを繰り返していたら買えるのか? いや、無理でしょ”って心の中で思っていました。途中から聞くのもイヤでした。ないのはわかっているし、店員さんも毎回聞かれるのイヤだろうなって……。

――ヒロユキさんも諦めモードっていう感じだったんですか?

ヒロユキ そうです。でも、聞かなきゃわかんないし、ある物も出てこないしと思って、頑張りましたけど(笑)。