チームの勝利と個人の成長が問われる高校野球

近年の高校野球は、夏の甲子園で優勝を目指すチームの勝利と、プロ野球選手を目指す個人の成長のバランスが問われている。

また、U18優勝と低反発バット導入前の内容に関しては、文春オンラインの記事にて、『戦略で読む高校野球』から抜粋された甲子園で勝つチームを作ることと、将来活躍する選手を育成することが「別物」になりつつある高校野球の現状について分析している。(参考URL:https://bunshun.jp/articles/-/65004)

これまでは、チームの勝利と個人の成長のバランスが程よい感じになっていたが、低反発バット導入によって打者の育成は大きく変わるだろう。

上記でも挙げたように、世代別ではないプロ野球を見ても、打者が育ちづらい環境だった2011年から2012年以降のシーズンは、球界全体が苦しんでいた。

さらに、U-18の世界一により「スモールベースボール=日本らしい野球」の固定観念が、さらに強くなっていくと見られる。

そのため、甲子園出場や甲子園で上位を目指していくには、スモールベースボールを軸としたチームになる高校が増えていく可能性は高い。

この状況になれば、打者として日本を引っ張っていきそうな原石となる選手が、出てきづらい環境になっていくだろう。

そうなると、今後はより一層、中学3年生の段階で甲子園出場を目指すかプロ野球選手を目指すか、その二択で高校の進学を決めなければいけなくなる可能性が高い。

実際のところ、U-18で世界一に導いた馬淵氏が率いる明徳義塾は、プロ入り後に活躍した選手はほとんど大成していない。

高校野球では、試合巧者のイメージが強い馬淵氏だが、選手個人をプロでも大成させる育成の方針があることとは、また別の話なのがわかる。

チームづくりと選手育成の視点で見ても、短期的ならスモールベースボールだが、中長期的ならトータルベースボールを駆使していくことになっていくだろう。

上記を踏まえると、U-18の優勝と低反発バット導入により、「高校野球のなかでの最適解」と「プロ野球でトップを目指す」の二極化がより加速していくと見ている。

近年の高校野球は、低反発バット導入はもちろんのこと、球数制限やベンチ入り人数の増加などを含めても、制度の変化によって戦術も急速に変化していくだろう。


プロフィール
ゴジキ(@godziki_55)
野球著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』『坂本勇人論』(いずれもインプレスICE新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)を出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディア取材多数。最新作は『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)。X(旧Twitter):@godziki_55