読者によって違う「スピス」の表情
――「サカバンバスピス」は、どういったキッカケで描き始めたんでしょうか?
遊ハち あれは逆にシチュエーションから思い浮かびました。今年の6月頃にサカバンバスピスの知名度が上がって、最初は“みんな描いてるな”くらいの感じで眺めてたんです。あるときに、目が丸くてちょっと笑ってるような、“あの変な顔のままジーっとこっちを見つめてくるようなことがあったら面白いよな”と思いついて、そんなシチュエーションのマンガが描けないかなと思いました。
傘を取ろうとしたら微笑んでジーっと見つめてくるみたいな。そのシチュエーションで1ページのマンガをなんとなく描いて投稿したのがキッカケです。当初は5話完結で終わらせるつもりだったんですが、思いのほか反応をいただけたので、今でも描き続けてます。
――店の軒先に紐で吊るされてるっていう発想もすごいなと思いました。
遊ハち シュールな雰囲気にしたかったんです。あの表情を固定で描いて、怒ってるかもしれないって思う人もいれば、笑ってるんじゃないかとか、悲しんでいると思う人もいるような、人によって受け取り方が変わるような作品にしたいと思って描きました。
最後にスピスの顔がドアップで映ってるのも、あの表情を見せたかったからです。皆さんからのコメントを見ていると、スピスはどう思ってるんだろう……って、いろんな考察をしてくれてるのがうれしいですね。
――遊ハちさんの描くイラストは、やわらくてモチモチとしていて触ってみたくなると感じるのですが、キャラクターを作るときにはどんなことに重点を置いてますか?
遊ハち やわらかさというのは自分的に大事にしているところかもしれないですね。はちさんだったら表情がすごく変わったりとか、スピスは表情は変わらないけど、手で持ったときに形が大きく変わったりするところとか、そういうのが面白いかなと思って描いてます。
――そう考えると、いろんな人と物理的に触れてるシーンが多い気がしますね。
遊ハち そうかもしれないですね。特にスピスは吊るされたり、持たれたりして変な形になってたりすることが多いですね(笑)。
ハムスターでマンガの基本を学んだ
――書籍化された『
』についても伺っていきたいんですが、ハムスターのマンガを描こうと思ったキッカケはなんだったんでしょうか。遊ハち ハムスターはTwitterで活動し始める前から飼っていました。最初に飼ったのは「えだまめさん」というジャンガリアンで、かなり気性が荒い子でした。そのあとに妹が「みたらしさん」というゴールデンハムスターを飼い始めたのですが、その子がずっとビビリな性格で。びっくりすると動かなくなっちゃったりとか。
ジャンガリアンとゴールデンで性格に差があるんだなと思って。「ハムスターの種類による性格の差」の話をしたら共感してもらえるんじゃないかと、試しにイラストにして投稿してみたのがキッカケでした。
妹が飼っている子たちも含めて5匹のハムスターがいるのですが、一匹一匹、性格によって動き方が違ったりとか、毎日見てないと気づかないような発見があります。なので、ネタが尽きずに書き続けられて今回の書籍化につながったと思います。
――遊ハちさんを通して見ると“こんなに性格の差があるの!?”って驚きます。
遊ハち ずーっとハムスターを見てるので、おのずと性格の差もわかってきて、マンガでもそういう表現になっていきますね。
――読んでるとハムスターが飼いたくなります(笑)。マンガとイラストって描き方が違うと思うのですが、マンガを描き始めたときの苦労ってありましたか?
遊ハち 初めて描いたのがハムスターのマンガだったので、担当編集者の方にマンガの描き方を教えてもらいつつ描きました。「これくらいのコマ割りで、ここで話を展開させて、ここでオチをつけて」みたいなことをこのマンガで学びました。そのときに学んだことが、はちさんやスピスを描くときにも活かされてますね。他の作品もハムスターのマンガのおかげです。
――ハムスターはエッセイ的な感じで、はちさんやスピスは架空のキャラクターですが、描き分けるうえで意識していることはありますか?
遊ハち スピスはシュールな感じを押し出していきたいなと思って描いてます。主人公のスピスは表情が変わらないし、動かないというなかで、どれだけ面白いオチをつけられるかなというのを考えてます。何もしゃべらないし、何も動かないけど、最後に顔をアップにしてシュールさを強調したりとか、間を大事にしたりしています。
逆に、はちさんは犬や猫のようにすごい動き回って賑やかになるような感じで描いてます。ハムスターに近いかもしれないですね。動かないスピスと動くはちさん、みたいな感じで描き分けてます。