山里亮太(南海キャンディーズ)と若林正恭(オードリー)の伝説のユニット「たりないふたり」の仕掛け人・安島隆氏の著書『でも、たりなくてよかった たりないテレビ局員と人気芸人のお笑い25年“もがき史”』(KADOKAWA)が発売中だ。

この本は、山里と若林の出会いや2人との歩み​​はもちろん、テレビ道の“端っこ”を歩いてきた彼だからこそ語れるエピソードが盛りだくさんで、さらに「コンプレックスこそ人生の武器になる」ことを教えてくれる一冊でもある。ニュースクランチのインタビューでは、「たりないふたり」の話を中心に、ビジネスパーソンにも刺さる仕事に対する考えを聞いた。

▲安島隆【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

南キャンとオードリーの漫才は「発明」

――「たりないふたり」は、2009年に社交性や恋愛などが“たりない”2人で結成されました。当時、山里さんと若林さんのどんなところに興味が湧いたのでしょうか?

安島 南海キャンディーズとオードリーの漫才って、作品として「発明」だと思うんですよ。2人ともコンビのプロデューサーであり、相方という人間を研究しつくしたうえで、あのフォーマットの漫才を作った。だけど、ただの黒子にはなりきれない、“ドロッとした部分”が滲んでいる感じに興味が湧きました。

そこをメインに広げたら、彼らにとっても新しい視界が開けるんじゃないかって。最初は、30歳を超えても馬が合う2人とファミレスで話せるって幸せだよな、みたいなものの延長でした。とんでもない手応えがあったのは、初ライブのあとです。

――そんなライブでの活動後、テレビで『たりないふたり -山里亮太と若林正恭-​​』(日本テレビ系)がスタートしました。

安島 「(♯1で触れた)飲み会ってくだらない」って、当時、かなりのカウンター(パンチ)だったと思うんですよ。特に芸人さんの世界では、そこでエピソードを拾って、ひな壇で喋る世界だったのに、それを「行きたくない」とか「くだらない」というところから始めたんです。

――たしかに衝撃でした。

安島 「♯2」では「テレビのワイプでは表情を作っている」と普通に言っちゃっていて、今考えると、怖くてしょうがないですね(笑)。テレビタレントがステキな景色を見て「心から美しいと感じているはずだ」と誰もが疑わなかった時代に、「そもそも興味ないし、苦痛なんだよね」という前提から番組が始まる。

これって視聴者の方もそうですし、テレビの人間がどう思うかを考えてたらできなかった回だと思うんですよ。そこのバランス感覚と常識がなかったからこそ、やれたと思います。

▲初期の「たりないふたり」を見返すとハラハラすることもあるそう

解散ライブはドキドキしながら見ていた

――テレビ業界にも世間にも新たな価値観を提示した「たりないふたり」は、瞬く間に人気となりました。視聴者の方の反応を感じて、どんなことを思っていましたか?

安島 すごくうれしかったですね。日本テレビ本社の近くに「日テレ屋」というショップがあって、当時、そこで収録観覧券代わりのTシャツを販売することになったんですが、見に行くと早朝からとんでもない行列で……泣きそうになりましたね。

『スッキリ』で天の声を見守る直前の山ちゃん(山里)に連絡したら、わざわざ行列を見に来てグッときてました。目の前のお客さんが喜んでくれているのが伝わったので、テレビでも最後まで勇気を持てたし、すごく救われました。

――視聴者の方が心のどこかで思っていたことを、山里さんや若林さんが笑いに昇華してくれるのが、痛快だったのでしょうね。

安島 ただ悩みを吐露し合うんじゃなくて、「飲み会に誘われそうになったら、電話がかかってきたふりをして、その場から立ち去る」とか「苦手な人が自慢してきたら、コンタクトがずれたふりをして出ていく」など、その笑いの点と点が、番組の最後にやる漫才につながるので、悩みを笑いとして昇華することは意識していました。

――「たりないふたり」は、その後も番組やライブで活動していましたが、2021年のオンラインライブ『明日のたりないふたり』をもって解散。無観客の生配信で、5万5000人以上が視聴しました。お二人の漫才は面白いのに、心が震える不思議な感覚を覚えましたが、安島さんはどんなことを感じたのでしょうか?

安島 鉛筆で書かれた設計図のラフしかなかったので、当日、それがどんな建物になるかなんてわからなかったし、2人もその設計図を見ながらも、その場で建物を作るので、どうなるかわかっていなかったと思うんです。

もちろん、設計図はあったほうが違う方向にも行けるし、乗っかることもできるし、いいと思うんですが。「山ちゃんって、こう言ったらこうなるよな」とか「若林くんって、こう言ったらこう返すよな」とか、それまでの歴史そのものが設計図になっていましたよね。

皆さん、いろんな意味でワクワク、ドキドキしながら見ていただいたと思うんですけど、僕自身もあまり変わりなく「これ、どうするんだろう?」と思って見ていました。僕はスタッフなので、冷静なところもあるんですけど、その比率は少なくて、だいぶ主観でした(笑)。