「コンプレックスが武器になる」と書いた理由

――この本では、安島さんが「テレビの端っこを歩いてきた」というテレビマン人生のことも書かれています。『得する人損する人​​』や『解決!ナイナイアンサー​​』など、ゴールデンの番組も手がけられましたが、いわゆる王道を歩いて学んだものは、どんなことなのでしょうか?

安島 例えば「たりないふたり」は、もちろん他にスタッフもいましたけど少数だったし、基本的には、山里・若林・僕の三角形で話をし、相互作用が生まれて作品ができていました。そこにやりがいや生きがいを感じていたんですけど、ゴールデンだと3人どころじゃないですよね。100人単位のスタッフがいて、みんなの力を借りるしかない。

山ちゃんと若林くんとは長年の付き合いで気心が知れているし、頭の中も一緒な部分が多いので、パス回しも早いんですよ。でも、ゴールデンでは初めて会う人をはじめ、いろんな人が介在していて、シンプルに話が合わない、伝わらないこともあった。最初はツラく感じたこともあったんですけど……いつしか、それも面白いって思うようになったんです。

自分の今までの考え方、やり方が生かせたところもあるし、それをもっと広げてくれたこともある。僕の視界じゃないところから人が入ってくれることで、僕ひとりじゃ絶対に辿り着けないことができた。そこに学びがありました。

――この本を読んで、苦手な立ち位置にいたとしても、気づきや思考の転換だけで、活路は見出せるんだと感じました。

安島 本の主題として「コンプレックスが武器になる」と書いているんですけど、ゴールデンをやるときも、自分のたりない部分が世の中に伝わるか心配だったし、自分の価値観でモノを作るのが怖かったんですよ。実際、自分の価値観が色濃く出たものは、結果かなりコアなコンテンツになるので、“俺は何もないんだ”と開き直るしかないと思いました。

逆に言うと、番組で紹介した掃除や料理の裏ワザは、みんなやっているのかもしれないけど、僕はその経験がないので、驚いて面白がれる。それが逆に武器になると思ったんですよね。もしかして、自分を殺さず、そういうズラし方をすれば、いけるんじゃないかと思いました。

▲安島氏の話はTV制作に限らず全仕事に通ずる気がした

『だが、情熱はある』の制作現場にあった情熱

――安島さんが立ち上げてきた番組や企画には熱を感じるのですが、それも大事な要素なのでしょうか?

安島 そこは山ちゃんや若林くんの影響が大きいと思います。2人とも、頭の中でシミュレーションして、いろんなことを考えてくるんだけど、舞台の上とか収録に行ったら、いつでもそれを捨てる覚悟があるんですよ。面白くなるなら自分の設計図を捨てられるし、常に腹を括っている。その場の熱を最優先できるんですよ。

もちろん、自分が思い描いた通りにやる快感もあるんですけど、それを超える瞬間を芸人さんや番組に何度も見せていただいたので、やっぱり最後は熱だよな、とは思いますね。

――この本を執筆するか悩んでいたとき、若林さんが「後輩たちの五輪書になる」と背中を押してくれたと書いてありましたが、テレビマンだけではなく、ビジネスパーソンのためにもなる一冊だと思いました。

安島 僭越ながら、テレビ業界を志す方にはもちろん、モヤモヤを抱えながら仕事をしている方に読んでいただいて、こういう生き方や考え方のパターンもありかなと思ってもらえるのが一番うれしいですね。

――今春、若林さんと山里さんのエッセイが原作となったドラマ『だが、情熱はある』が放送されましたが、ご覧になっていかがでしたか?

安島 素晴らしかったですね。僕があれを制作する立場だとしたらイヤですよ(笑)。2人も怖かったと思います。だって、 世紀の珍作になる可能性もあったわけじゃないですか。今までの生きてきた歴史が「(笑)」になっちゃったら2人に申し訳ないし、放送前、どういう立場でこの企画の話をしようか、と何度も葛藤はありました。

※安島氏は、2人にドラマ化の承諾を得る役を任された。

でも、作り手の河野英裕プロデューサーの本気さとか、役者の皆さんの顔ぶれを見て、信じたいなと思ったし、これを僕のいろんな思いや恐怖感で止めてしまうのは、間違っているし、ダサいなと思っちゃったんですよね。

――蓋を開けてみると、愛情たっぷりのステキなドラマでしたよね。若林さん役の髙橋海人さん(King & Prince)、山里さん役の森本慎太郎さん(SixTONES)の印象はいかがでしたか?

安島 水卜麻美さん(日本テレビアナウンサー)をMCにして「たりないふたり」を振り返る番組があったんですが、そこでドラマの収録現場に潜入する企画があったんです。最初の撮影が「北沢タウンホール」(初ライブや解散ライブを行った会場)だったんですが、そーっと扉を開けてステージを見ると、山里亮太と若林正恭がそこにいて……。「これはヤバい。本物がいるぞ」と。それで一気に“もう大丈夫だな”と思いました。