2019年から始まり、5年目を迎える『関西演劇祭』。舞台を通して、劇団や審査員だけでなく、お客さままですべての人を“つなぐ”をテーマにしたフェスティバルが、2023年11月11日(土)~19日(日)まで開催される。

有名無名が入り混じるチャレンジングな舞台を盛り上げるのは、開催当初よりフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路さんと、今年の実行委員長に就任された南野陽子さん。今回はそんなお二人に、関西演劇祭への意気込みや舞台への思いをインタビューした。

▲板尾創路 / 南野陽子【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

そこにいる人みんなで作るのが舞台

――板尾さんは5年目となりますが、改めて『関西演劇祭2023』への意気込みをお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

板尾創路(以下、板尾) 今回初めて足を運んでくださる方には、楽しいものが見られると期待して来てもらいたいです。僕はもう5年もやっているので(笑)。楽しませる準備はできています!

――今年から実行委員長に就任された南野さんはいかがでしょうか?

南野陽子(以下、南野) はい。私が実行委員長でいいのか、本当に申し訳なく思ってますけれども(笑)。でも、今は関西演劇祭のことをより多くの方に知っていただく期間だと思っています。そして、こんなに面白くて、ステキな劇団がたくさんあるってことを広めていきたいです。

――テレビと舞台のお芝居は、またアプローチが違うと思うんですが、お二人が舞台でお芝居するうえで気をつけていることや、信念としてあるものを教えてください。

板尾 上演時間のなかで、お客さんと演者の“呼吸”の共有を大切にしています。お客さんの反応とか、間合いみたいなのを感じられるのが、舞台のいいところです。客席が誰もいない状態で役者がお芝居できるかといえば、たぶんできないですよね。お客さんと演者が1つになって、初めて“いい舞台だったな”と思えます。そのためにも、稽古してきたものをすべて出して、お客さんに楽しんでもらうことが大事です。

――シリアスからコメディなものまで、さまざまな作品に出演されている南野さんはいかがでしょうか。

南野 舞台に出ている瞬間は、自分を信じてまっすぐ立つことだと思います。ドラマや映画でいえば、手元だけしか映らないような瞬間でも、どこから見られてもいいように堂々とする。小手先に頼らず、自分をさらけ出すことが大切です。舞台は、お客さまの反応がダイレクトに伝わってくるところです。笑い声やすすり泣き、足の組み換えもできない静寂が起きているときは、“伝わってるな”っていうのがすごくわかる。本当にその時間、そこにいる人みんなで舞台を作ってるなと思います。

▲南野陽子

舞台に影響されやすい人なんです(笑)

――これまで観劇されたなかで、印象に残っているお芝居はありますか?

板尾 いっぱいあるんですけどね…(笑)。芸人になってからの話になるんですが、自由劇場の『上海バンスキング』を見たときに、吉田日出子さんの存在感に圧倒されて、あれは忘れられないですね。広い劇場で、普通の肉声でやるっていう感覚も、僕は初めてだったんです。でもしっかり聞こえるし、声も綺麗だし。すごいな人間って、演劇ってすごいなって思いましたね。

南野 たくさんありすぎて困ります! 中学生くらいだと吉本新喜劇や劇団四季、宝塚などを見て、お姫様ドレスが着たかったり、面白いことがしたかったりと影響を受けていました。ほかには、ふるさとキャラバンの『ムラは3・3・7拍子』ですね。20歳ぐらいだった私を、誰かのために何かをしたいと思わせてくれました。本当に舞台を見るたび、私だったらどの役やるだろうとか、 ああいう考え方の人になりたいなとか。すごい影響されやすい単純な人なんです(笑)。

――(笑)。お二人とも、お芝居を勉強する期間があったのではと思います。そのなかで、なるほどと思ったことや、印象に残っている言葉などはありますか?

板尾 そう言われると本当に恥ずかしいんですけど、お芝居の勉強をしたことがないんです。とにかく舞台に出ることで、自分なりに学んでいきましたね。お客さんの前で実際にやってみて、そのたびに演出家さんにアドバイスを求めて。「こう見えていたなら、じゃあ次はこうしないといけない」と、どんどん吸収させていただいていました。

南野 デビューしたときですら、自分がお芝居をやっていく人間だと思っていなかったので、当時は本当に何もできませんでした。なので、最初に言われたことは、とにかく声を出すこと(笑)。あとは、仲間とコミュニケーションを取りなさいとか、稽古場は気持ちよく使うためにお掃除しなさいとかも言われましたね。その教えは、今でも私の中に残っています。

――そういったお芝居への向き合い方が、板尾さんと南野さんの根本にあったのですね。

南野 あとは、 平幹二朗さんに「きっと得るものがあるから『文楽』を見なさい」って、すごい言われて。実際に見てみたら、本当に人形が動くわけでもないのに、表情が変わっているように見えるところに驚きました。それからは、関西でお仕事があるときなど足を運ぶように意識しています。

――自分とはまったく別人格のものを演じるときの、役作りはどのようにしているでしょうか?

板尾 最終的には、自分がそういう人生やったらとか、こういう環境やったらというふうに、自分の中から出すしかないなぁと思っていて。なので、あまりにも別人になりきることを追求するのは、あえてしないようにしています。別人になったとしても、結局は自分なわけで。だから、役作りって言われても、じつはあんまりピンとこないですよ。

▲板尾創路

――南野さんも、大きくうなずいていらっしゃいますね。

南野 昔は、たとえば病気の役だったらすごいダイエットをして、準備期間に別人になるのに集中していたことがありました。でも、あとになって思えば、自分よがりだったことも多かったかなと思います。今は、まったく違う人の人生を生きるわけだけど、私に似た人の人生だと思うようになりました。その時期にその役がきたことを楽しんで、素直に受け入れていることが多いですね。