小説の執筆はネタ作りとの共通点が多かった

――ジャンボさんは普段から本を読んでいますか?

ジャンボ あんまり読まないですね。でも、漫画はめちゃくちゃ好きなんです。半年くらい漫画喫茶でバイトをしていたんですけど、そこで漫画をオススメする担当をやっていました。小説を読んだのは……マジで5冊くらいだと思います。

――本の帯を書いてくれている小説家の浅倉(秋成)さんとは、学生時代にコンビを組んでいましたよね。もともと文章が書ける2人だったのかなと思いました。

ジャンボ 浅倉が小説を読んでいるのも見たことないですよ。本人も言ってましたけど、彼はただただ文章の天才だっただけで。中学の卒業文集でも、浅倉はわざと難しい文章を使って、みんなを笑わせていましたね。

――コントやネタを書ける人は、その延長で本を書けるのかもしれませんね。

ジャンボ そうですね。正直、俺の場合もネタを書くのと一緒でした。会話だったら「こうしようかな」「じゃあ、こうもっていこうかな」「途中で、これ入れようかな」とか、すらすら書けちゃいます。構成もセリフもボケも、全部ネタ作りと同じだなって。

――ということは、本の構成作りにはあまり苦労しなかったのでしょうか?

ジャンボ あ、【ゆり】さんの話だけは、全部創作だったのでちょっと悩みました。他の話は実体験も入れられたし、会話劇が多いのですらすら書けたんですけど……。【ゆり】さんの話は、ストーリーを動かすうえで、めっちゃ重要なポイントだったんですよ。このとき初めて、紙のノートに時系列を書いてまとめました。

――女性目線の話を書くのは、難しかったのではないでしょうか?

ジャンボ 女性目線の話は見事なまでに想像です。自分で書いておきながらなんですが、【夕紀】さんとお母さんの関係性がすごく好きなんです。それもマジで理想ですね。お母さんがめっちゃモテる人、でも娘への愛が絶対的で、2人して男を振り回すモテ親子で……みたいな。そんな親子かっけぇなって。本当、理想を書いているだけですね。

あと、女子会での会話とか大好きなんですよ。「私、SEXするパートナーがいるからさ」「私、夜はすごい叫ぶんだよね」「私、前世はライオンだと思う」みたいな会話、めっちゃ好きです(笑)。

――(笑)。モデルにした人がいたんですか?

ジャンボ 【夕紀】さんは、俺が1回だけデートした可愛い女の子がいて。仕草とか表情とか、その子がモデルですね。余談になるんですけど……その子に関しては“しまった! 今ので逃してしまった!”と思った出来事があったんです。その一撃で、運命が閉ざされてしまいました……。

大好きな古谷実の漫画から学んだこと

――レインボーさんのコントを見ていて思うのですが、二人とも芝居が上手ですよね。コントは動きや表情で見せられますが、小説は文章ですべて表現する必要があると思います。

ジャンボ その点は素人すぎましたね。【田中】の話を書いていたとき、書きたいことは山ほどあったんですけど、なんか田中が魅力的なヤツになんなくて。そこで、【田中】をめっちゃ俺っぽくしたんですよ。

そしたら「あれ? 田中、走り回るじゃん!」って。高橋留美子さんとか​​板垣恵介さんなどの有名漫画家を輩出している養成塾「劇画村塾」で、小池一夫さんが「キャラを立てれば、漫画って勝手に面白くなるから」と言っていたんですけど、それが初めてわかりました。【田中】が勝手に動いていたんです。

――芸人で小池一夫さんの話をする方に初めてお会いしました。ジャンボさんに一番影響を与えた漫画は?

ジャンボ 古谷実さんの作品には影響を受けている気がします。『ヒメアノ〜ル』で精神系を書ききって、そして『サルチネス』が出て。『サルチネス』は、古谷さんの哲学ですよね。俺、あらためて自分の書いた小説を読み直してみて、自分の思想とか考えを全部入れたいんだと思ったんです。

人間には不幸の水と幸せの水が毎月配布される。幸せの水は甘くておいしい、不幸の水は苦くてまずい、でも両方全部飲まなきゃいけない。

人によっては不幸が40本届いて、幸せが1本の場合もあって。不幸があまりにもまずいから、幸せと混ぜて飲んでしまう。こんなにおいしいものがあるのに、混ぜることで全部をまずくしちゃってるんじゃないか……。

これ、『サルチネス』の話なんですけど、言ってることはよくわかるじゃないですか。「俺、どんだけ幸せに感謝してなかったんだろ」って考えさせられる。たしかに一部分は超イヤだけど、一部分は恵まれているからいいじゃんって。たぶん、古谷さん自身がそんなことを考えているからこそ、こういう話を描けるんだと思うんです。

――なるほど。

▲古谷実さんの作品について熱く語る

ジャンボ 自分の小説で、偽善者の話が出てきます。偽善だろうとなんだろうと、側から見たら、偽善者のほうが100%いいんですよ。裏でどう思っていたとしても、実際にいい言動をしてくれる人のほうが絶対いいじゃないですか。

偽善者のほうが実際いいことしてるからなって、子どものときから思っていたんです。本を書いているときは意識していなかったんですけど、出来上がって読んでみて“うわ、めっちゃわかる。っていうか、俺が書いてたわ”って思いました(笑)。

――ちゃんと思想が作品に落とし込まれていたんですね。芸人仲間とそういった思想の話はされるんですか。

ジャンボ そう言われてみると、案外しないっすね。池ちゃん(相方の池田直人)としかしないかも……。考えてはいるんですけどね。普段、人と全然そういう話をしないから、それが今、この本に出ているのかも。

――本当はちゃんと思想を持っているけど、楽しい場では明るく振る舞っているんですね。

ジャンボ 本当そうですね。俺、その場の空気を壊したくない気持ちが先行するんです。俺が池ちゃんにブチギレるのも、「空気壊すなてめぇ!」みたいなときだけなんですよ。自分の思想や考えは、作品とかラジオとかで出しているんだと思います。