強豪・帝京相手に奇跡を起こす!
しかし、東京都サッカー協会のホームページを見ると、都立同士の試合を延長で勝ち切ったかと思うと、あれよあれよと勝ち上がり準決勝へ。相手は帝京高校。この年のインターハイ全国ベスト4です。
僕は部活の練習終わりに、試合が行われる駒沢陸上競技場に中学時代の仲間と見に行くことにしました。
スタジアムに着くと、すでに両チームの選手がピッチに広がっています。そして、両チームのスタメンが発表されています。
「6番 カキハラナオヤ」
先輩の名前が聞こえました。
「うぉ! スタメン!!??」
僕らの代は中学時代、カキハラくんの代と同じくらいの強さだったと認識していますが、この年の選手権では都大会にすら誰一人として行けていません。(学力で高校選んだヤツが多かったのもあるけど)
そんなレベルの部活の先輩が、スタメンで強豪・帝京と戦うことに胸がゾクゾクとしました。
観客席に入ると、めちゃくちゃ上手いボランチ、の横で相手の攻撃の芽を摘んでいくカキハラくん。
「俺らの代のボランチ、めちゃくちゃ上手いんだよ」
そうカキハラくんが言っていたのが、隣の位置でゲームメイクをする桜井直哉選手(後に当時JFLの横河武蔵野に入団)であることは容易にわかりました。
ポジション争うのがきついと言っていたカキハラくんは、プレースタイルを大きく変えて、守備的ボランチとしてレギュラーを確保していたのです。
試合は早々に帝京が退場者を出します(たぶん)。しかし、やはり先制点を取ったのは東京最強の帝京。
それでも久留米も粘り強く戦い、一進一退の攻防で追いつくと、試合は延長に。たぶん。(すいません。17年前なのであんまり覚えないうえに、古すぎてネットに情報がなく、自分の記憶と、この試合に帝京のDFとして出ていた大学の先輩、ケイゴさんから聞いた話を組み合わせて書いてるので時系列曖昧です)
そんな激闘の果てに、延長で決勝ゴールを決めたのは久留米でした! そしてそのまま試合終了。決勝進出! ジャイアントキリングです!!
試合後にはカキハラくんが
「お前ら来てたのか!」
と手を振ってくれて、なんだか芸能人が話しかけてくれたみたいな不思議な感じでした。
決勝の相手は東海大菅生。久留米高校がインターハイ予選で負けた因縁の相手です。僕は部活があったので夜中にテレビで見ました。
久留米高校は準決勝に続き、またしても延長に突入かと思われた後半アディショナルタイム、お母さんだったら「こんな遅い時間に何やってんの?」というくらい終盤に、相手を囲い込むハイプレスをかまし、縦に速い攻撃でゴールをもぎ取ることに成功しました。そしてそのままタイムアップのホイッスル。
……全国です!!!
俺たちの先輩の! カキハラくんが! 中体連(クラブチームなしの部活だけの大会)の都大会にも出られなかったカキハラくんが! 入部当初、地黒でロナウジーニョにちょっと似ていたので、先輩から「ブラジル人ですか?」と過度な期待を寄せられていたカキハラくんが!
14年前に全国に出て以来、一度も出てなかった久留米が! 3年生しかいない久留米が!
3年生だけのチームだからこその阿吽の呼吸
全国大会、初戦の相手は、この年の決勝に進出することになる作陽高校でした。
逆境を乗り越えてきた久留米高校は2点ビハインドから1点を返し、その後もチャンスを作ります。しかし、一歩およばず一回戦敗退となってしまいました。
久留米高校は走れるし、勝ち上がり方からもわかる通り、後半に強いですが、このコラムから想像されるような耐えしのぐサッカーではありません。
予選でも、この作陽戦でも際立ったのは、局面を複数人が連動して崩すダイレクトパス主体の美しい攻撃でした。(「面でつなぐ」がキーワードだったと認識しています)
深夜にやっていたハイライトでは久留米高校に関するエピソードを紹介していました。
「3年生しかいないため、3年間雑用もグラウンド整備も自分たちでやってきました」
「相手がいないと紅白戦ができないため、ベンチ入りできない部員も引退せずに毎日練習に顔を出しています」
久留米のパスサッカーは3年間、ずっと同じメンバーでやってきたからこその“阿吽の呼吸”が感じられるパスサッカーでした。
そして、僕がカキハラくんに会ったのは、準決勝のあの日が最後です。元気していますか? どこかのフットサル場でブラジル人に間違えられていませんか?