現在も謎に包まれている1963年11月22日に起きたケネディ大統領暗殺事件。犯人とされているオズワルドが、暗殺に使ったとされているライフルで命中させるのは難しい、という説もあったが、2013年制作のドキュメンタリー番組で実験によって覆された。社会派・サスペンス映画に詳しい映画評論家・瀬戸川宗太氏が紹介する。

※本記事は、瀬戸川宗太:著『JFK暗殺60年 -機密文書と映像・映画で解く真相-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

海兵隊でのあだ名は赤パンツだったオズワルド

映画『JFK』が後半のハイライトシーンとして描写した、ディーリープラザでの暗殺の具体的状況を、近年の調査や検証の過程をたどりつつ、分析していこう。

まず、暗殺現場の実情を事件後、いち早く公にした報告書=ウォーレン委員会報告の内容から見ていく。

同報告書は、リー・ハーベイ・オズワルドが、テキサス教科書倉庫ビルの6階の窓から、イタリア製のライフル銃(マンリカ・カルカーノ)で、エルム通りをリムジンに乗って進行中の大統領を背後から5.6秒間に、3発連射し殺害したというものである。

▲ケネディ大統領暗殺事件に使用されたとされる銃 出典:アメリカ国立公文書記録管理局 / Wikimedia Commons

ギャリソン検事は、この基本的な事実認識に異論を提起した。すなわち、ボルトアクション式のライフル=マンリカ・カルカーノでは、引き金を引くまでにかなり手間がかかるため、5.6秒間に2発命中させるのは不可能である、ということ。

なお、5.6秒というのは、暗殺現場で偶然8ミリ撮影をしていたエイブラハム・ザプルダーのフィルムに写っていた、大統領殺害シーンから割り出された秒数だが、そんな僅かなあいだに3発も撃ち2発を命中させるのは、相当な腕前でも無理、ましてやオズワルドにできたはずがない、というのがギャリソン検事の主張である。 

オリヴァー・ストーン監督をはじめ、多くの暗殺陰謀論者も同様の見方をしていた。映画が制作された時点では、FBIによる狙撃実験でも失敗し、さらにオズワルドは海兵隊時代、射撃の成績は並以下だったと伝えられていたのも影響している。

ギャリソン検事は、ウォーレン委員会報告に対する疑問(海兵隊時代、オズワルドの狙撃下手が有名だったことなど)をラッセル・ロング議員に教えられ、そのときから政府の公式発表に大きな疑問を抱くようになったようだ。

同議員がギャリソン検事にウォーレン報告を批判し、一笑に付すくだりが『JFK』にも出てくる。ワシントンDC上空のジェット旅客機内でのシーンだ。ロング議員(ウォルター・マッソー)が「オズワルドは海兵隊じゃ、あだ名は赤パンツだ。射撃が下手という悪口さ」と、あきれた顔で話す場面が印象に残る。

犯行に使われたマンリカ・カルカーノという銃は、命中率が低く、第二次世界大戦中「最低のライフル」と評されていた。そんな銃で、「赤パンツ」のオズワルドがリムジンに乗った大統領を撃ち殺せるはずがない。『JFK』を初めて見たとき、私もそのように解釈するのが当然だと思った。

事件の再現でオズワルドの単独狙撃説が再浮上

ところが、暗殺50周年を記念して「ヒストリーチャンネル」が2013年に制作した番組『決定版:JFK暗殺最新レポート』には、以上の説明を覆す決定的な事件検証の試みが映し出されている。

〇JFK Assassination: The Definitive Guide, Nov. 22nd 8/7c | History

まず、オズワルドがテキサス教科書倉庫ビル6階の窓から、大統領をライフルで撃ち殺すことができたか否かを検証するために、当時と全く同じ環境が再現された。

場所は、テキサス州フェリスにあるシューティング・アカデミー。6階の高さのある場所から、80m離れた3つの標的(大統領を乗せたリムジンが3発撃たれたときに、移動したと考えられる3か所)を設置し、それらを狙って素早くマンリカ・カルカーノ銃の引き金が引かれた。

その際、射撃を行ったのはネイビーシールズ(米海兵隊の特殊部隊)の狙撃兵だったマシュー・メルトン。彼は、5.53秒間に3つとも見事に射抜き、これまで信じられていた5.6秒で3発撃ち、2発命中させるのは不可能という理論をあっさり覆してしまった。それもたった1回の実験でやり遂げてしまったのである。

これで、オズワルドが一人で撃ったという説が否定できなくなった。狙撃を成功させたマシュー・メルトンは「彼(オズワルド)が同型の銃を使った可能性はあります」と言ったが、厳しい条件を付けるのを忘れなかった。

「可能性はあるといってもあくまでも射撃場での話です、標的が生身の人間でしかも大統領なら、恐怖で感情も高ぶります。ほかにもさまざまな外的要因を考慮する必要があります」

プロ中のプロの発言であり傾聴に値しよう。

やはり犯行を成功させるためには、相当な腕前でなければならないから、「赤パンツ」の男には無理だったのではないか?

その疑問については、同シーンの直後、ケネディ暗殺事件に詳しい作家ジェラルド・ポズナーが、次のような証言をしている。「オズワルドは噂ほど射撃が下手ではなく、海兵隊に入隊した頃は、射撃の名手でした。彼は200m先にある25cmの標的を射抜けました。スコープなしで10発中8回も。優秀でした」というくらいだから、相当な腕前だったといえよう。

その技術を除隊後も維持できたかどうかは不明というが、暗殺前にルイジアナのジャングルで特別訓練を受けていたならば、オズワルドが大統領を殺害した可能性は十分ある。