パチンコ雑誌で書けたら最高じゃない?
子どもの頃から本を読み、小説を書き、パチンコに憧れを抱いていた彼女。好きなことの掛け合わせを見つけことで、まさに「好き」を仕事にしていくことになる。
「書く仕事に就きたい、とはずっと思っていました。しかも、それをパチンコ雑誌で書けたら最高じゃない?って。いろんなことがようやくそこで結びついたんです。それで、履歴書を『パチンコ必勝ガイド』とかに送り始めました。聞いた話によると、すっごいたくさん応募があるみたいなんです。だから、私の履歴書は見られたとしても、すぐに捨てられるんだろうなと思っていました。
そしたら、送って2日後くらいに電話がかかってきたんです。たぶん……送った文章が比較的ちゃんとしていたこと、あとは名古屋在住だったことが大きかったんだと思います。今は少なくなりましたけど、名古屋ってメーカーの直営店がたくさんあったんですよ」
名古屋にいたのは作業療法士の学校があったからだそうだが、これもパチンコライターに導かれる大きなアドバンテージになっていたようだ。ライターとしてパチンコに勝つか勝たないかに興味があるのは当然のことだが、そうじゃない周辺文化的な部分に興味をもったのは必然だったのか。それとも意識的だったのだろうか。
「周辺文化みたいな部分に興味を持ち始めたのは、ライターを始めて1~2年目だったので早かったと思います。中学や高校時代からサブカルチャーには影響を受けていたし、興味もありました。あとは、やっぱりライターとしての表現、自分にしかできない表現を見つけたいと思うなかで、そこにたどり着いたっていうのもあります」
好きなことを仕事にするのは“生きる術”
彼女が書いた本は、他にはないこだわりが感じられ、パチンコが好きな人じゃない人にこそ読んでほしいものに仕上がっている。パチンコ文化について、思うことがあるからこその表現なのではないか。そうと聞くと……。
「この本に関して、ホールさんとかメーカーさんとか、そういう人たちからの反応が薄いとは思っていました。だから、その人たちに読んでもらうことはあまり想定していなかったんです。けれど、業界関係者が“この本は面白いから、パチンコ屋の店員に読ませたい”と言ってくださったんです。
だから、パチンコを打つ人にも打たない人にも、伝わる本ができたかもしれないなって。今のパチンコ業界については、自分も観察者として入り込みすぎないように考えているんですけど、こういう形で本にしてしまったら、投げかけていることになるんですよね。でも、押し付けることはしたくはない。いろんな人に何か伝わるものがあればいいなとは思ってます」
一歩引いた位置からパチンコを見ているからこそ、業界関係者に伝わるものがあるのかもしれない。競馬・競輪・オートレース……いろいろなギャンブルがあるなかで、彼女が感じているパチンコの魅力を教えてもらった。
「“孤独な大衆娯楽”であることでしょうか。単純に、向き合う先が機械じゃないですか。馬がいるとか、艇があるとか、ディーラーがいるとか、そういうのがない。店内には人が密集しているのに、一人ひとりは孤独で……それなのに、駅前ならどこにでもあるような大衆娯楽なんですよね。それが魅力だと思います」
パチンコの周辺文化を、彼女ならではのこだわりで表現した本のタイトルは『偏愛パチンコ紀行』。“偏愛”と書かれてはいるが、そこには“博愛”にも思えるような何かがある。紆余曲折ありながらたどり着いた現在の職業。彼女にとって、“好きなことを仕事にする”とはどういうことなのか。
「今はもう、生活すべてがパチンコ。何をしていても、パチンコと関連づけないと体が動かなくなってしまうんです。だから、これ以外の仕事を選ぶっていうことが考えられない。好きなことと仕事を切り分ける発想が私にはないんです。こういう人間にとって、好きなことを仕事にするっていうのは生きる術とも言えますよね。だから、好きなものがあったら、迷いなく好きなものを仕事にできるように頑張ればいいんじゃないかな。
現在のパチンコ業界を見ていると、上り調子ではないので、どうしても目先の利益ばかりを追ってしまっているように感じています。私くらいは周辺文化を伝えることで、パチンコの魅力を伝えられたらと思ってます」
最後に、座右の銘を聞いた。
「うーん……“のさらん福は願い申さん”ですかね。パチプロをやっていた頃に好きだった言葉なんですけど、要は、目の前の利益のことだけ考えてやっていると、最終的に自分の首を絞めることになってしまっている、ということですね。この言葉がすごく胸に響いていた時期がありました」
X(旧Twitter):@henaieika