昨今の大相撲界で、親方衆が第一の課題として挙げるのが、力士数の減少。少子化も相まって、力士になる若者の数は減ってきており、約30年前の若貴ブームの頃は800人を超えていたが、今年に入って600人を割ってしまった。
今回、元大関・魁皇の浅香山親方に取材。たたき上げ(中学卒業後に入門)の親方は、スカウトが苦手と笑うが、どのような人材育成をしているのだろうか。
大事なことは“強くなりたい”という気持ち
――現在、9人の力士が所属している浅香山部屋。そのほとんどが相撲未経験で入門しているとお聞きしていますが、皆さんどういった経緯で入られているのでしょうか?
浅香山親方:うちの部屋のホームページを見て、親御さんに連れられてくることが多いですね。父親が元力士の子もいれば、柔道経験がある子、知り合いの紹介で来た子など、経緯はさまざまです。
私のスタンスとしては、まずは稽古や部屋の雰囲気を見てもらって、そのうえで入りたいかどうか決めてください、といった感じです。というのも、私自身が意思なく大人同士の話し合いで入門が決まってしまったから、中学3年の秋から卒業までの憂鬱な期間は本当に忘れられないね(苦笑)。
そんな思いをさせたくないので無理強いはしません。ただ、角界に入ったからこそ今の自分がいますし、うちを辞めていった子でも、力士になったことを後悔しているという話は聞きません。だからこそ、少しでも興味があるならやってみる価値は絶対にあるよと話します。
――入門希望の子が来たら、どんなところに注目しますか?
浅香山親方:大事なのは気持ちです。気持ちさえあれば、体格も技術もいくらでも変えることができる。例えば、いま22歳の魁陽龍(かいひりゅう)は、高校を卒業してうちに来たとき、体重は75キロもありませんでした。それから約4年で110キロ近くあります。決して無理させたわけではなく、自分から食事も運動もしっかりするので、体が出来上がっていきました。本人に強くなりたい気持ちがあれば、自然に体ができて相撲も覚えてくるんです。
――すごいですね。親方は、学生や子どもの大会にスカウトへ出向くこともありますか?
浅香山親方:そういうのが苦手なんですよ(笑)。自分はたたき上げで、学閥などのつながりもありませんからね。相撲をやっている学生は、いずれどこかの部屋に入って角界を盛り上げてくれればいいので、自分は、ほかの競技をやっている子や、相撲未経験の子たちを引っ張ってきて強くする。そういう違った目で見ることも大事かなと思っています。
私自身、小学校は空手、中学では柔道、相撲の経験はほとんどありませんでした。相撲をやっていなくても、ほかの競技で相撲に合っている子がいるかもしれない。そういう子に来てもらっています。
――浅香山部屋は、優しい親方の性格をそのまま映したような、和やかな雰囲気がありますよね。意図している部分はあるんでしょうか?
浅香山親方:自然とそうなっているのかな(笑)。気を抜かないで思い切って稽古できるならそれが一番ですが、あまり厳しくしすぎてもついてこられませんからね。いろんな雰囲気の部屋がありますが、どんな場面でもブレずに稽古できれば、それでいいと思っています。
見学に来てくれる子たちにも、よその部屋も見ればいいし、うちはあくまで選択肢のひとつと思ってくれればいいよ、と話しています。って、そんな悠長なことを言っているから、なかなか新弟子が来ないのかな(笑)。でも、うちの部屋に入らなくても、ほかの部屋に入ってお相撲さんになってくれたら、それだけでうれしいですよ。