天野喜孝さんのアドバイスで吹っ切れた悩み

『プレバト!!』では写実的な水彩画を披露しているが、プライベートでは油絵の抽象画を描いているという。技法もテーマも大きく異なる二つの絵画を手がける理由を聞いた。

「油絵を描き始めたのは上京してすぐです。仕事もなく引きこもって競馬漬けだった毎日を変えようと思い、世界堂に足を運んだんです。それまでも鉛筆で絵は描いてましたが、油絵は敷居が高くてチャレンジできていませんでした。昔から絵を描いてるときは時間を忘れて没頭できたので、好きなことをもう一度思い出そうと始めたのがきっかけです」

具象画と異なり、抽象画は目に見える対象を描くものではない。どのようなテーマで抽象画に取り組んでいるのだろう。

「普通に“部屋に飾る絵が欲しい”という動機で今は描いています。そのときの気持ちを表現しようと思い、モチーフは特に決めずにキャンバスに絵の具を乗せて、そのまま広がる様子を作品にしました。絵の完成形が頭にあったわけではなく、その日の気分で思うままに絵の具を乗せています。特別な信念があって描き始めたわけじゃないんです」

これだけ絵の才能が広く知れ渡っていると、当然、ファンからは個展を要望する声が届く。“プライベートで描いている抽象画を展示したい”と彼女は語るが、そこには絵に対する葛藤が見え隠れする。

「皆さんに個展をやってほしいと言われますが、私が絵でお金を稼ぐのはおこがましいと感じるんです。私自身、絵が大好きで、画家の方を尊敬してるし、苦労してる人をたくさん見てきましたから。大学では私より何倍も絵がうまいのに苦労してる人もいました。あとは、なんて言うんだろう……まだ自分の絵に納得してないんです。

いろんな人の作品からインスピレーションを受けて抽象画を描いてますが、それって“ゼロから何も生み出してないんじゃないか?”という不安があって。それに、趣味の範囲で描いてる絵を人に評価してもらうのは違う、という考えもあります。

先日、尊敬する天野喜孝さんと仕事でご一緒したとき、そのことについて相談してみたんです。そうしたら天野さんから“僕もモネの真似から絵を描き始めたんだよ”とアドバイスをいただいて、人からインスピレーションを受けるのは間違ってないと腑に落ちました。ようやく最近になって“絵が得意です”と言えるようになったくらいです」

▲『海』

「この『海』と名づけた作品は、画材でどこまで遊べるかを追求した一枚です。キャンバスの凹凸の凸の部分にうっすら色を乗せて、いろいろ遊んでみました。人に見せたいというよりも、自分の中で実験を突き詰めた作品なんです。ここまで話して閃いたけど、それが自分オリジナルの絵なのかもしれませんね」

『夜の工場地帯』は魂を削って描きました

あまり世に出してはいないものの、すでにそれなりの点数の抽象画を描いてきたが、心から納得できる作品はいまだ描けてないという。

「抽象画については“これで完成!”と言える作品はまだありません。いま見ると、どの作品も“もっと良くできる”と思うんです。いろんな人の作品を見て勉強すると、私の構図の甘さが見えてくるんですね。自分の部屋に飾る作品だったらすぐに描けますが、それでコンテストを狙うとなったら、もっと時間をかけて納得のいく出来にするはずです。

私って絵を描くペースに波があって、『プレバト!!』で描いた『夜の工場地帯』は一級建築士の受験生期間とカブっていたので、本当に魂を削って描きました(笑)。そのせいか、3ランク昇格して名人8段になれましたが、そういうときのほうが筆が進むんですよね。

コロナ禍で時間ができたとき、大作を描こうと思って大きなキャンバスを買いましたが、そのときはまったく筆が進みませんでした。当時は家に引きこもって人にも会わず、何を描いていいのか思い浮かばなくて。

私は感情の揺れ幅で筆が動くタイプなので、描くときは思いきり描いて、波が収まると途端に描かなくなるんです。レオナルド・ダ・ヴィンチもそうだったみたいですね。筆を持ったら3日寝ないで描くタイプ。私と同じです(笑)」

▲筆を持ったら3日寝ないで描くタイプなんです

「プレバト!!」最高位の名人10段の称号を持ちながら、その地位に甘んじることなく上を目指す彼女。今後の目標について聞いた。

「『プレバト!!』で名人10段まで昇格できましたが、番組内のコンクールではいまだ無冠なんです。でも、それがオイシイかなとも思ってるので、当面は維持するかも(笑)。じつは最近、水墨画にも興味があります。ちょっとでも天野さんの絵に近づけないかなと思っていて。

油絵もまだまだ勉強することだらけです。いろいろな展示会に行くと“油絵の表現ってこんなにあるのか!”と驚くことばかりです。塗って乾燥した絵の具をヤスリで削って中身を出すとか、目玉が飛び出るくらいビックリしました。そういう実験もどんどんしたいですね。今日、いろいろとお話を聞いてもらって、少しだけ自分に自信が持てました。まずは匿名で個展を開いてみようかな(笑)」

(取材:松山 タカシ)


プロフィール
 
田中 道子(たなか・みちこ)
【生年月日】1989年8月24日
【出身地】静岡県
【血液型】O型
【サイズ】身長172cm
【趣味】楽器演奏(ピアノ・ハープ)・テニス・ダーツ・スキューバダイビング・登山・映画
【特技】ピアノ・テニス
X(旧Twitter):@tanaka_michiko_、Instagram:@michikotanaka_official