前半で3点を奪われるまさかの展開……
そして迎えたACミランとの決勝戦。学校で唯一リヴァプールファンの僕は、しっかりと仮眠をとり、コンディションを整えてリビングに座ります。
しかし出鼻を挫くのは、親父の代からミラン一筋、Mr.ミラン・マルディーニ。16歳でプロデビューして、この年でプロ20年目のキャプテンが開始1分でボレーシュートを叩き込みます。
明石家さんま師匠は、この試合を振り返って「1分で明日の新聞の見出し決定した思ってん」と言っていました。
さらにミランは攻勢を強めます。ジェラードだけはミランでも主力になれるレベルとしても、他のリヴァプールの選手5〜10人分の市場価値を一人ひとりが持つミランは、とにかく強い。
前半でクレスポが2得点。特に2点目は、僕たちカカロニのコンビ名の由来であるカカのスーパーアシストでした。
リヴァプールの選手たちの絶望的な顔が印象的でした。さんま師匠は「試合が決まった」と、ここからワインを飲みすぎて記憶がなくなったそうです。しかし、ハーフタイムに響いた声は僕を昂らせました。
リヴァプールサポーターが選手たちに『You’ll Never Walk Alone』を歌ったのです。『お前たちは決して1人じゃない』と、元気づけるために声を枯らして。
そして後半、カップ戦の鬼・ベニテス監督が動きます。ボランチにハーマンという守備がうまい選手を入れて、ジェラードを一列前へ。後ろは3バックに。
ハーマンがカカを消すと同時に、当時、世界一のレジスタであるミランのピルロに負けじと、若きシャビ・アロンソが輝き出します。
そして後半9分、リーセのクロスを頭で叩き込んだのはジェラード!! そうです! このチームを突き動かすのは、いつだってジェラードなんです!
今度はジェラードがサポーターを煽ります。サポーターにとってこんなに燃えることがありますか! スタジアムの雰囲気は一気に押せ押せムードに。本当にまだ2点差あるのかというくらい、アンフィールドのような雰囲気。都営アパートのうちのリビングも1人アンフィールド!
そして、その僅か2分後でした。怪我をした現横浜F・マリノス監督を務めるハリー・キューウェルに変わって、急きょ起用されたシュミチェルがミドルシュートを突き刺します(チェコ代表! 俺たちのチェコ代表!!)
さらに4分後! ペナルティエリアに侵入したのはまたもジェラード! ジェラード!! 僕たちサポーターの叫びに焦った闘犬ガットゥーゾが思わず後ろから押し倒し、審判が笛を吹きます!
キッカーはジェラード……ではなくシャビ・アロンソ。このちびるような状況で、一度は弾かれたこぼれ球を自ら叩き込みます!!!
同点!!!! 格上相手に!!!! 3点差を!!!!! たった7分間の出来事でした!!
このとき、うるさすぎてお母さん起きてきてめちゃくちゃ怒られました!!! でも、14歳のすがや、こんな試合見たことなかったから!!!!
鬼の形相で取り返しにくるミランに対し、リヴァプールはジェラードをサイドバックにして今度は一転、我慢の時間。リヴァプールは、そのときジェラードがいるポジションがストロングポイント!! ジェラード、オールラウンダ―すぎるだろ!!!!
その後、延長に入り体が限界を迎え出すリヴァプールを救ったのはトラオレ。1試合を通して相手の技術とスピードに苦しんでいましたが、足をつりながらもゴールライン上でスーパークリアを見せて最後にチームを救います!
さらに、今度はシェフチェンコの決定的なヘディングを、守護神デュデクがスーパーセーブ!!!! しかもそのこぼれ球、シェフチェンコのゴールまで2mのシュートを再びデュデクがスーパーセーブ!!!
この辺からはお母さんも一緒に見てました。
そして、猛攻を耐え抜いたリヴァプールはPK戦に持ち込みます。こうなると追いついたリヴァプールのほうがメンタル的に優位。僕ももう勝つ気しかしなかったなかで、デュデクはクネクネダンスでキッカーを幻惑してセルジーニョのミスを誘います。
蹴る前にめっちゃ前に出ているから、今だったら絶対やり直しだけど、とにかくミスを誘うと、5人目のシェフチェンコを再びクネクネダンスでストップ! 今なら絶対蹴り直しだけど、時代が違うのでいいんです!! リヴァプールがCLを優勝しました!!!
こうしてリヴァプールは『ヘイゼルの悲劇』から20年を経て『イスタンブールの奇跡』を起こしたのでした。
ジェラードがビッグイヤーを掲げる瞬間までテレビ中継を延長してくれたフジテレビ(もしくは直後の『めざましテレビ』でそこだけ放送してくれた気もする)を見届けた僕は、興奮のあまり熱を出して学校を休み、『熱を出した日のお母さんは優しい』という定説を覆すほど、お母さんに夜更かしを咎められたのでした。