これまでで一番楽しかったドイツ戦後の夜

さて、あっという間に、このコラムも一区切りとなりました。1年8か月ほどでしょうか。すごく楽しく、毎週書くことができましたし、原稿にするにあたり、いろいろなことを改めて調べ直すので、サッカー芸人としての仕事の糧にもなりました。

コラムの最後は、僕がサッカーを観戦してきて一番楽しかった日の話。2022カタールW杯、ドイツに勝利した夜です。

冷静に考えて、W杯を全試合、現地観戦していると、あの『ロストフの14秒』で有名な2018ロシアW杯ベルギー戦の次の試合が、ドイツに勝利した試合。負けてしまったコスタリカ戦を挟んで、スペインに逆転勝利した試合というのは、とんでもないことですよ。4試合中3試合が歴史に残る名試合なんですから。

日本代表が奇跡的な二度のアップセットを起こすなんて、多くの人がまだ思っていないドイツ戦前日夜、インド・デリーを経由する過酷なトランジットに耐え、ドーハへ到着。

電車内では、緑のユニフォームを着たサウジアラビアサポーターが「ハフハフ」としています。誤字じゃないです。本当に大盛りあがりではないのです。ハフハフと喜んでいるのです。

その様子は、信じられないといった感じ。聞くところによると、サウジアラビアがアルゼンチンにジャイアントキリングを起こしてみせたとのこと。駅のベンチでは、アルゼンチン人が悪い意味で、信じられない……といった顔でうなだれていました。

カタールのホテルは爆裂に高額なので、駅前にコンビニもないドーハの外れ、さらに、そこから徒歩30分ほどの、サポーター仲間がチェックインしているアパートへ。大人数で一軒家を貸切り、相部屋にすることにより、宿泊費を浮かすのです。

夜11時に宿に到着。お酒は宗教上の理由で手に入らないので、コーラで前夜祭。陽が昇れば、このアジア勢の番狂わせに勇気をもらった僕たち日本代表の冒険が始まります。

翌日、朝起きると見知らぬ若者が隣のベッドに寝ていました。若手サポーターの彼は、夜3時頃アパートへ到着したとのこと。

彼は、海外でWi-FiもSIMカードも変更せずにスマホを使い、カタール到着と同時に携帯会社から50万円の請求がきたそう。さらに、ぼったくりタクシーで宿に辿り着く、という海外ルーキーにやりがちな2つのミスを、ドーハ到着、2時間ですでにコンプリートしていました。

若さゆえの失敗談は最高のコーラの肴となり、ドイツ戦に向け、ボルテージは上がっていきます。

宿の周りは、夜道は怖かったですが、朝見ると異国情緒があってとても美しい。タクシーの相乗りで、スタジアムへ向かいます。

▲宿の近くで記念に撮影 写真:筆者提供

スタジアムにはアラブ系の方は多いものの、ドイツ系サポーターは少数。W杯前のLGBTに関するカタールの価値観に、ドイツサポーターが抗議の意味を込めてボイコットした、というのはニュースで知っていましたが、思っていたよりも多くのサポーターの総意だったようです。

それでも世界的強豪ですから、ドイツのユニフォームを着ている多国籍なサポーターたち。

▲ドイツサポーターとも仲良くなった 写真:筆者提供

一方で、過去二大会と明確に違うことがありました。日本代表のユニフォームを着た外国人サポーターが圧倒的に増えたのです。彼らは日本代表を「アジア最強」「アジアの代表」と捉えてくれ、そのサッカーにも魅力を感じてくれていました。

これは、中東には日本企業の工場が多いというのも、かなり影響しているのだとか。南米開催だと、南米諸国は圧倒的に強いというのは、「W杯あるある」ですが、日本がアジア圏でこんなにも応援されているというのは驚きでした。