もしかして、オレだけヤバいやつなのか?

ここで一つ気付く。
ちょっと待てよ。
ここはメンズ専用のサロンで客層はオレと同世代くらいの男達だ。オレ以外のお客さんはサロンの人と楽しそうに談笑してる。

もしかして、オレだけヤバいやつなのか?
眉毛サロンには陽気な人間だけが集まってる? 
オレだけ……暗い?

待ってくれよ、
それは嫌だ!!!

“オレは暗い”という自覚が芽生えたが、まだ受け入れてはいない。

美容室は喋らなくても良いという文化が出来ているけど、眉毛サロンは美容の一歩先をいく、明るくてオシャレな人が集まる場所だ。明らかにオレだけ常軌を逸してる。

これはまずい…喋らなくては……。
焦り始めたタイミングで何かを察してか、偶然なのか担当の女性の店員さんが話しかけてきた。

「あのー、眉毛の太さどうしましょう? お仕事的に細すぎると困るとかあります?」

オッケー、これはチャンスだぜ。

業務的な会話だが、ここから喋るには存分に話を広げる事が出来る。

オレは暗い所があるだけ。本当は明るい。パーティーピーポーだ。

心のショットグラスをギュッと握り締める。

両サイドのお客さん!
ここからオレのコミュ力に震え上がりな!

「太さですか? 最悪全部剃っちゃってもいいですよ」

――――――沈黙が走る。

しまった!!!
いきなりやりすぎたか?
無口だった奴がいきなり眉毛の全剃りを希望したのはボケに聞こえないか?

「あははははは。んじゃ剃っちゃいますか(笑)」

ウケた。
居合の達人は、切られた本人がしばらく気付かない。きっとその現象なのだろう。

「そういえばお仕事は何されてるんですか?」

会話が広がった。
そして芸人すがちゃん最高No.1を知らないのは好都合。

人間・菅野直人としての明るさを見せられる。
もしかしたらここで頑張ればオレは根っから明るくなれるのかもしれない。

「イベント系の営業やってます」

絶妙な嘘をついた。
一応イベント系だし、自分でパフォーマンスして仕事を取ってくるのは営業と行っても過言じゃない。

「営業なんですね。大変ですよね。私も前職営業だったんでわかります~」
「そうなんですね。いや大変ですよ。オレも辞めてここのサロンで働かせてもらおうかな」
「あははは。んじゃ店長に行っておきますね(笑)」

完璧だ。
流れるような会話。溢れでる店員さんの笑顔。

オレはもう暗くない。

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人を笑わせるのがいつの日か仕事になっていたのかもしれない。

そうじゃない。オレはいつ何時でも人を笑わしたかったんだ。

この経験が、オレに大切な事を思い出させてくれた。

そこからは自分が持っている全てを使って会話を盛り上げた。

店員さんの口角が上がりきったところで眉毛も綺麗に整った。

心なしかオレの眉毛も笑ってる。

晴れやかな気持ちで会計を済まし、店を出ようとすると去り際に一言。

「いつもテレビで見てます! 応援してます!」

ん?

「あっ、ありがとうございます」

咄嗟の出来事に反射で返事をして店を出た。

!!!
ちょっと待ってくれよ。
オレの事知っていたのか? 途中で気付いたのか?

恥ずかしすぎる!!!!なんかオレが嘘つきながらはしゃいでたって、閉店後に盛り上がったりするかも…!!!

そこからその店は恥ずかしくて行けなくなり、新たに通い始めた眉毛サロンでは一言喋らず過ごしている。

これは自分が背伸びした結果が生んだ凄惨な事件だ。

やっぱり身の丈で生きた方がいいんだな。

次回、反省第7回「死んだ親父と話した日」は、8月20日(水)更新予定です。お楽しみに!!