諸行無常を描く

高野:その方とは友達ではなくなってしまったんですか?

阿南:いえいえ、今でも友達です。

高野:友達だけど意見が食い違うこともあるということですね。

阿南:そうですね。そして、この感覚をテーマにしたいなと思って調べていくと、仏教で“諸行無常”という言葉があって、一定のものはこの世にはないみたいなことなんです。それから日本の美意識である侘寂(わびさび)っていうのがありますけれども、枯れていくものの儚さとか、そういう美意識を入れたいなと思いで、今の形にたどり着いているっていう状況ですね。ただ、塗りつぶすと絵が消えちゃうじゃないですか、なので、線が消えないようにちょっと膨らませています。

高野:なるほど。また塗るんですか?

阿南:また塗ります、線の中塗りますね。時間が経って、自分が変化した部分を何色かはまだわかんないですけど、書き足していこうかなと。これは去年の5月ぐらいに描いたので。

高野:時間の経過と共にずっと一緒に居続けるみたいなことですか?

阿南:そうですね。10年、また10年やって、また更に10年やって、どんどん変化していくといいなっていうのが、全部の作品の土台にあります。

高野:そうなんですね。

阿南:展示のキャプションだけでは伝わらないところはあるんですけど。

高野:お話を聞くとストーリー性を感じますね。もちろん、バックボーンを知らずに見ただけでも、木の上に描かれた味があるので、さっきおっしゃっていた侘寂みたいな、今風に言うとエモーショナルのような雰囲気が、木と融合することでより強く感じますし。パッと見はやっぱり可愛らしさ、デフォルメされたキャラだったりが目に入ってきて。だから、そこのバランス感覚は本当にすごいなって、見てて思いましたね。

ネズミの実験がモチーフとなった作品

阿南:僕も『BLEACH』とか『NARUTO』や『ポケモン』とか、そういうもので育ってきたので、そういうアニメ、漫画とか、もっと遡ると、鳥獣戯画みたいな、カエルが踊ってるやつあるじゃないですか。最古の漫画みたいに言われているんですけど、そういうものを好きで触れて育ってきたので、それに近い感覚が入っていると思います。

キャラクターのような感じですね。この作品もモチーフがありまして、ネズミの子が重なって、箱に入ってる感じじゃないですか。急に学術的な話なんですけど、アメリカ国立精神衛生研究所の研究で、ネズミの楽園実験っていうのがあるんです。

ネズミを最初に8匹箱に入れるんですけど、四畳半ぐらいの広さで、外敵もいなくて、餌も水もたくさんあって、ウイルスもいないし、天候も気温も完璧みたいな楽園を作って、ネズミがどうなるか実験をしたんですよ。結果は、全滅したんですよ。ネズミも子供を増やしていくので、1000匹以上住めるような広さの箱になっているんですけど、最終的には、子供が生まれなくなって、絶滅するんですよ。

高野:へー!

阿南:それをモチーフにした作品なんです。餌も水もあるのに、なぜその集団が滅ぶのかっていうのに衝撃を受けて。それがまさに今の日本の社会というか、先進国は大体少子化してますけど、小学生がiphoneを持ってたりするような豊かな状況なのに、なぜ人口が減少するのか。なぜそうなってるんだっていうのがすごい気になって、それを作品にしました。

高野:僕も凄く見ちゃってましたね。線が綺麗だなと思って。透明感もあって、テーマと結びついてますね。これ、一度描いた絵を消すわけじゃないですか。緊張しないんですか?

阿南:嫌ですね(笑)。色味も結構気に入っているので、これを消してしまうのは嫌ですね。

高野:そうですよね、嫌ですよね(笑)。

阿南:でも、それが儚さに繋がるんです。諸行無常がテーマなので今いい状態なのに、一度壊してしまう。なので、売約になった作品も、いずれは消させてくださいと伝えています。

高野:えー! そうなんですね。すごいですね。

阿南:そういうコンセプトでやってるので、アトリエも新しく和室になって、お気に入りです。

和室のアトリエでの作業

高野:これは作業したくなりますね。このテーブルはもともとあったものですか?

阿南:はい、天板は前から使っていて、脚は作りました。

高野:全部おしゃれですね。以前の部屋は和室だったんですか?

阿南:普通の洋室でした。 その時は、全然お招きできるような感じではなかったのですが…。

高野:和室からお庭が見えるのもとても素敵ですね。ちなみに、照明はつけないんですか?

阿南:照明はないです。

 高野:陽が落ちるまでに作業をするんですか?

阿南:はい、そうですね。前のアトリエの部屋は普通の洋室だったので、普通に電気が点いていて。やっぱ制作していると、朝までやっちゃったりするので、そうすると、どんどん昼夜逆転しちゃったりして。大変なんで。もう照明をつけずに。暗くなったらもう出来ないっていう縛りでやるのもいいかなとは思ってますけど。

高野:なるほど。

阿南:とは思ってますけど、多分展示前になったら、灯りをつけてやっちゃう(笑)。この部屋は、このデスクの方が北向きなんです。アトリエは、日当たりがない方がよくて、光が入ると色が変わっちゃうので、絵が焼けちゃったりするんです。なので、北向きに窓があると、いつでも光が変わらない。だから、アトリエは北向きがいいです。

高野:へー!

――勉強になりますね。