参りを口実に女郎遊び

戯作『船頭深話』(式亭三馬:著/文化3年)に、古石場の女郎屋が描かれている。

朝早く、呉服屋の手代・源四郎がやってきた。女郎屋の女中が迎える――

女 「おや、源四郎さん、いま時分に、どう思し召しで」

源 「いや、わしはな、けさ、朝参りを願うて、ようように来たじゃ。きゃつは、夕べ、出てじゃろな。どこにじゃい。性急じゃ、性急じゃ、いんまのまに戻らんと、えろう間合いが悪い。なんと、きびしいせがみようじゃろが」

――つまり、馴染みの遊女をすぐに呼んで、寝床の用意をしろと、要求している。

大店の奉公人、いわゆる店者(たなもの)がいかに自由のない生活を送っていたかがわかる。

彼らは住み込みであり、夜の外出はきびしく制限されていたため、夜遊びはむずかしい。しかし、遊びたい。

そこで、この呉服屋の手代は、寺社に朝参りをするという口実で店を抜け出してきた。

時間がないので、悠長にはしていられない。朝にもかかわらず、すぐに遊女と床入りしたいというわけだった。

【用語解説】
・深川七場所(ふかがわななばしょ)
仲町、土橋、裾継、櫓下(表櫓、裏櫓)、あひる、石場(古石場、新石場)、新地(大新地、小新地)の七カ所を、深川七場所と呼んだ。この七場所のほかにも、小さな、安価な岡場所はあった。深川は岡場所だらけだったと言っても過言ではない。

『江戸の男の歓楽街』は次回6/10(水)更新予定です、お楽しみに!

 〇今に残る石場の痕跡

牡丹2丁目
付近は小規模な飲食店が点在し、かつての盛り場の名残がある(編集部撮影)
石島橋
門前仲町駅から出て、この橋を越えるとかつての石場のエリアに入る(編集部撮影)