遊びたいがために不正行為に手を染める

前出【※連載第9回】の手代・源四郎は、遊興費はどう工面していたのだろうか。

とても手代の給金では、岡場所で女郎買いなどできないので、おそらく店の金をごまかしているであろう。こういう不正行為に手を染める店者は多かった。

だが、発覚すると、大変である。

そんな例が、同じく『船頭深話』にある。

遊女が客の男と、番頭・藤兵衛の噂をする――

女「わたやぁ、おめえに言おう言おうと思って、忘れたよ」

客「何だ」

女「おめえ、あの藤兵衛さんが内をかぶったとよ」

客「なに、新川のか。そして、今じゃあ、どうした。おおかた、付けのぼせだろう」

――噂の藤兵衛は、店の金を持ち出して、古石場の女郎屋で遊んでいたのだ。

「内をかぶる」は、使い込みなどが発覚すること。

「付けのぼせ」とは、懲罰として上方(かみがた)に戻すこと。江戸の大店(おおだな)は、大坂や京都など上方に本店があることが多かった。そんな店では、奉公人は上方から江戸に出てくる。

なお、藤兵衛の奉公する店は新川にあるようだ。新川には大きな酒問屋が多かった。藤兵衛は新川の酒問屋の番頭だったのであろう。